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2023年はグローバル化とSiCの新市場で始まった

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新年あけましておめでとうございます。2023年1月1日の日本経済新聞は「グローバル化、止まらない」と題した記事を一面トップに掲載、米中対立やロシアのウクライナ侵攻で分断されているもののグローバル化は止まらないことを伝えた。4日の日経一面トップの「EV急速充電器規制緩和」という見出しを見てSiCの需要が増える、と直感した。

半導体産業は、市場、システム設計、LSI設計、製造、後工程とテスト、という分業がもはや世界的になっている。トランプ前米大統領は自由貿易国だったメキシコに2.5%の関税をかけ、米国ファーストを叫んだ。しかし今、米国とメキシコの国境にテスラレーンと呼ばれるTeslaの米国工場向けのトラック専用レーンが出来ている。前大統領がメキシコとの貿易を断とうとしても安価なメキシコ製自動車部品は相変わらず米国に流入しているという事実を伝えている。

ただし、これまでのグローバル化はもはや成り立ちにくくなっていることも事実だ。ロシアと西欧を結ぶロシア産天然ガスのパイプラインはもはや使えなくなった。西欧がロシアの天然ガスに頼ってきたことの代償として、ガスの価格が高騰した。台湾のTSMCはアリゾナ工場の完成を祝う式典で、第2工場を建設し始めたことを明らかにした。このことも中国が台湾に侵攻するリスクを考えた一連の動きの一つだ。米国は常に最悪のシナリオを想定した計画を立ててきた。

では世界は分断に向かうのか。米国は半導体サプライチェーンを米国内で完結しようというTSMCの誘致だけではなく、CHIP4Allianceプロジェクトも発足させた。これは、米日韓台の4つの地域の中でサプライチェーンを完結させようという動きである。いわば中国を避けた形で半導体サプライチェーンを構築しようというものだ。グローバル化は必然であり、各国得意不得意がある。このためグローバル化は避けられない。しかし、できるだけ自由貿易国内でのグローバル化が望ましい、という訳だ。

日本がラピダス社を成立させたときに米国は喜んだ。ファウンドリとしてTSMC以外の選択肢が増えるからだ。だからこそ、TSMCは日本政府に対して腹を立てているという話もある。日本政府がTSMCの誘致を積極的に進めてきて熊本県にJASMを設立しているのにも関わらず、2nm相当のプロセスでTSMCのライバルとなるラピダスを設立させたからだ。日本政府がTSMCを説得できなければ、日本とTSMCとの関係は悪くなる。

日本がグローバル化を考えるとき、世界にモノを売るだけのグローバル化ではなく、世界と一緒に製品設計していくことが今の時代のグローバル化である。従来、日本製は高品質だからそのまま外国に持って行っても売れた。しかし、外国製が日本並みに高品質な製品を作れるようになった今、どこで差別化するか。丁寧に作る日本のやり方はもう通用しないという向きがあるが、海外チームと一緒に丁寧に作ることが出来れば海外の顧客は喜ぶのではないだろうか。いわば日本流「おもてなし」精神だ。


1月4日の日経は、EVの公共充電器数が日本は圧倒的に少ないことを報じている。国際エネルギー機関(IEA)によると、日本のEV公共充電器は2021年で2万9000基だが、日本より国土の狭い韓国は10万7000基もある。さらに急速充電器はもっと少ない。


Repsol社のEV急速充電ステーション

図1 SiCを使ったRepsol社の急速充電器 開発はIngeteam社で、InfineonのSiCデバイスを使った。


日本のEVは日産自動車の「リーフ」で先行したものの、CHAdeMOという日本独自の規格で充電設備を作ったが、急速充電仕様CHAdeMO 2.0にはまだなっていない。このため、EVの普及も大きく遅れた。Tesla社のEV「モデル」3は同社専用の充電設備を使えば、5分間の充電で120kmの走行が可能だという。

急速充電は充電時の電圧を高く上げて、一気に高エネルギーで80%程度まで充電する。このため高耐圧・低抵抗の半導体デバイスが求められる。SiC半導体はそれが可能である。すでにパワー半導体の王者であるInfineonは、SiCデバイスを使った急速充電器のテストを数年前からスペインで行ってきた(図1)。また、Teslaのモデル3にはSTMicroelectronicsのSiC半導体が使われている。このため、21年におけるSiC市場での販売額トップはSTである。

SiCは京都大学名誉教授の松波弘之氏が開発、彼の指導を受けたロームとInfineonが先行した。日本でも三菱電機や東芝、富士電機、サンケンなどがSiCに力を入れており、日本が急速充電器の規制緩和に乗り出すと日本メーカーにもチャンスが来る。しかし、外国勢の動きは速い。日本が勝つためには素早い経営判断に変える必要がありそうだ。

(2023/01/04)

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