米バイデン大統領がCHIPS法案に署名、半導体投資を支援

図1　バイデン米大統領がCHIPS法案に署名　出典：ホワイトハウス

CHIPS法案の内、工場建設などに出す補助金は390億ドルで、2027年までの5年間で米国内に半導体工場を新設・拡張する企業に補助金を出す。Intelのアリゾナ拡張工場やTSMCを誘致したアリゾナ工場、Samsungのテキサス工場などに適用されることになる。米国では、国家が一企業のために補助金を出すことに賛否両論があり、成立するまでに1年近くかかったが、日本が補助金を出せる法案を先に可決させたことで、米国でも法案成立が加速した。

ただし、この法案は、TSMCとSamsungにとっては、悩みの種でもある。中国で最先端半導体を増産しないことが条件とされているからだ。現実にTSMCとSamsung、SK Hynixなどは中国に半導体工場を運営しており、最先端とはどの程度のプロセスノードを指すのか、不明な所もある。これまでは最先端プロセスの製造装置を中国へは輸出しないようなワッセナール協定があり、最先端を5nm/7nmノードだという定義だった。しかし14/16nmまで広げるという噂も最近登場しており、この定義をはっきりさせる必要がある。

最先端の3nm、2nmプロセスノードの製品を生産するTSMCアリゾナ工場は現在建設中だが、上棟式を行ったという情報はある（参考資料2）。一方、TSMCは中国の南京工場では28nmプロセスノードだが、14/16nmノードは米国との板挟みななる可能性がある。

ただし、プロセスノード、とファウンドリが言う場合のノードは最小寸法とは全く別物で、実際の寸法を表していない。7nmプロセスノードと言っても最小メタルピッチは40nm程度でゲート長でさえ16~17nm程度である。PPA（Power, Performance, Area）が前世代よりも20~30%改善されたプロセスを先端ノードと称しており、実際の寸法ではなくむしろ設計でPPAを改善したプロセスを指しているようだ。DTCO（Design-Technology Co-Optimization）と呼ぶ設計とテクノロジーの同時最適化によってPPAを達成する。例えば、TSMCの7nm・5nmプロセスノードを実現するためにスタンダードセルやSRAMセルの設計を最適化しているのは、横浜にあるTSMCジャパンのデザインセンターである。

米国では、補助金を狙って新工場や工場拡張の動きが活発で、特にGlobalFoundriesがこれまでシンガポールに新工場設立や、STMicroelectronicsと共同でフランスのグルノーブル近郊に新工場設立を発表していたが、8日にはQualcommに2028年まで米国内での製造を確実にする長期契約を結んだと発表した（参考資料3）。GFはQualcommに対してFinFETのプラットフォームを提供し、TSMCのセカンドソースとしても使えるようにする。GFはこれまでプレーナMOSFET+FDSOIプロセスで対処していたため、最新プロセスにも関与していたQualcommの力も借りるようだ。Qualcommは、42億ドルのチップを生産する予定だ。

また、Micronは米国内でのメモリ生産に10年間で400億ドルを投資することを発表した（参考資料4）。工場建設と生産現場での仕事に約4万人の雇用を生み出すとしている。生産現場は約5000人としている。この発表もバイデン大統領の署名を見越したもので、ホワイトハウスの発表と同じ日付となっている。
今回の大統領署名に対してSIAとSEMIはいち早く歓迎の意を表した。

参考資料
1. "FACT SHEET: CHIPS and Science Act Will Lower Costs, Create Jobs, Strengthen Supply Chains, and Counter China", The White House Briefing Room (2022/08/09)
2. 「世界最先端を狙うTSMCの米アリゾナ工場、完成に向けて一歩前進」、iPhone Mania (2022/07/30)
3. "GlobalFoundries and Qualcomm Announce Extension of Long-term Agreement to Secure U.S. Supply through 2028", GlobalFoundries (2022/08/08)
4. "Micron Announces $40 Billion Investment in Leading-Edge Memory Manufacturing in the US", Micron (2022/08/09)