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経済版2+2で、国内に2nmノードの半導体研究センター設置が決まる

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日米両政府が次世代半導体の量産に向けた共同研究を始めることが経済版2+2の話し合いで決まった。米国政府の強力な要請で、日本が政府レベルで半導体に力を入れることが一歩進んだ。国内に2nmプロセスノードを開発する研究所を作る。米国では527億ドルの補助金を投じる法案がやっと両議会を通過した。米国の後押しで日本が半導体に目覚めたことは望ましい。

図1 経済版2+2の閣僚たち 出典:外務省ホームページ

図1 経済版2+2の閣僚たち 出典:外務省ホームページ


これまで日米両政府が防衛関係で、外務省と防衛省の閣僚が話し合う外務・防衛担当閣僚協議(2+2)を行ってきたが、これを経済面でも話し合うのが外務・経済担当閣僚同士の話し合いとなる経済版2+2だ。バイデン米大統領が岸田首相との会談で経済安全保障の必要性を日本に求めたが、それが今回の次世代半導体の量産に向けた共同研究となった。

米国は世界半導体市場では50%のシェアを握り圧倒的に強い。しかし活躍しているAMDやNvidia、Qualcomm、Broadcomなどの半導体企業は全てファブレスである。製造は台湾TSMCという図式だ。中国が習近平体制になり独裁国家の道をまい進する中、台湾を侵略するかもしれないという危惧が現実になってきた。1997年に英国から返還された香港の自由な民主主義の自治を50年間守るという約束が早くも破棄され、次は台湾か、という危惧が高まってきたのである。

米国にとって台湾が中国のモノになってしまえば、これまでの半導体の優位が崩れてしまう。このためTSMCをアリゾナ州へ誘致した。しかし、実際の運営はTSMCに依存するため、同じ同盟国の日本でも先端的な半導体量産工場ができれば米国にとっては好ましい。もちろん米国内でも半導体製造工場がたくさんできれば言うことはない。しかし、残念ながらIntelの製造はTSMCよりも遅れ、GlobalFoundriesはドイツのドレスデンに力を入れてしまった。バイデン政権になりGFはアルバニーから30km離れたマルタに本社を移し、工場拡張に動き出したが、政権はどうもGFを信用していないようだ。90nm以上のプロセスしか製造できないファウンドリのSkyWater Technologyには国防総省からの注文が入り、チップレットをベースにした半導体開発を進めている。

数年前に米国で聞いた話だが、日本政府の交渉力のなさを米国はよくわかっているようだ。1980年代の日米半導体交渉で、米国政府が日本政府に対して外国製半導体の日本国内の市場シェアを20%まで上げよ、というメチャクチャな要求をそのまま日本が丸呑みしたからだ。聞いた話とは、「まさか、20%の要求を日本が承諾するとは思わなかった」という関係者の言葉である。

米国側には、日本にもTSMCに匹敵するようなファウンドリができればいいなという「想い」がある。このため盛んに経済安全保障という言葉を持ち出し、岸田首相を説得した。以来、岸田首相は、何度となく経済安全保障という言葉を使ってきた。日本では半導体製造装置と材料は強いが、半導体製品は弱い。何を作るべきかという半導体ユーザーも弱い。さらに半導体を利用したITサービスも弱い。ファブレス半導体も弱い。この弱さで経済安全保障とは何を指すのか、しばらく理解できなかった。しかし、ここに来て米国の「想い」であることがわかると、ようやく理解できるようになった。要は米国の想いを日本が実現することである。

一方の日本でもSEMIや半導体関係者の半導体産業を復活させたいという「想い」がある。いきなりTSMCは無理でも、今から2nmプロセスノードの製造技術を磨くことはできる。また研究レベルで、GAA(Gate All Around)やSGT(Surrounding Gate Transistor)などの新構造のトランジスタを試作することが日本は得意だ。余談だが、FinFETの発明は日立製作所中央研究所にいた久本大氏である(トランジスタの命名はChenming Hu教授だが)。

7月29日の日本経済新聞によると、日本は年末までに「次世代半導体製造技術開発センター(仮称)」を立ち上げる予定で、産業技術総合研究所や理化学研究所、東京大学などが協力する。米国のNSTC(National Science and Technology Council)の設備や人材を活用すると日経が報じているが、NSTCはバイデン政権の委員会であり、研究所ではない。また、米国には国立の半導体研究所はない(SRCはコンソーシアム)。

次世代半導体製造技術開発センターには、企業の参加も募る。(1)半導体設計、(2)製造装置・素材の開発、(3)製造ラインの確立、という三つの分野を研究する。量産可能な段階に入れば国内外の企業に技術供与する、と日経は報じている。

(2022/08/01)

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