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KDDIの通信障害に見る、コンピュータ機器への影響と回避する半導体

この週末はKDDIの通信障害のニュースであふれた。一体何が起きていたのか、日本経済新聞をはじめいくつかのメディアから見えてくるものは、デジタル社会のインフラの重要性だった。またシミュレーション検証がまだ危ういこともわかった。米国ではIntelが巻き返すという記事が目立った。GPUを開発、ゲーム機市場にも乗り出すことを期待している。

図1 KDDIのホームページ

図1 KDDIのホームページ(2022年7月4日現在)


7月2日未明からKDDI系の音声通話やデータ通信が使えなくなった。その障害規模は全国に広がった。50時間程度つながらない状況が続き、いまだに一部のスマートフォンはつながっていない。7月3日に素早く記者会見を開いたKDDIの高橋誠社長は、陳謝した(参考資料1、2)。残念ながら原因はまだわかっていないが、何が起きていたのかは明らかになった。

携帯電話の基地局にある通信機器の内、ルータを旧式から新型に切り替え、新ルータからVoLTE(Voice over LTE:ボルテと発音)と呼ばれる音声通信交換機にうまく接続できなかった。ここで通信が15分途切れた。このため、古いルータに戻したところ、接続が一時切れていた携帯電話機が一斉につながったことにより、古いルータからVoLTEへのアクセスが集中、通信しづらくなった。音声通信交換機のVoLTEは全国に18機あるため、バックアップとして次々と接続してみてもアクセスは集中するばかりだった。まるでドミノ倒しのようにVoLTEにつながらないことが全国に広がった。これまでは、他の交換機に切り替えても一時的にアクセスは集中するがすぐに収束するというシミュレーションができていたが、今回はその通りにならなかった。

トラブルはこれだけではなかった。スマホの端末の通信状態や位置情報などの状況は加入者データベースに保存されている。通常は、加入者データベースに照らし合わせ、VoLTE交換機にアクセスするため、両方のデータは一致するが、今回はVoLTEにアクセスが殺到したため、一致しなくなった。この修正作業に時間がかかり、通信障害が長時間に渡ったという。

2021年にはNTTドコモの通信網が障害を起こしたが、この時はIoT端末向けのサーバーの切り替え工事での不具合が通信障害を引き起こした。この時の教訓から、ドコモの障害後にKDDIは自社の通信設備も見直したが、この時とは異なるVoLTE交換機のドミノ倒しによる影響までつかめなかったようだ。ドコモの教訓を生かしたはずだったが、想定外の輻輳で対処しきれなかった、と言えよう。

通信機器が全てデジタル化されるようになったため、通信回線のコストは劇的に下がったが、あらゆる組み込み機器に通信機が装着されるようになり、その影響は極めて大きくなった。スマホだけではなく、JR貨物や京成バスなど公共輸送機器や企業や銀行のサービスにまで影響を及ぼすようになっている。コンピュータと通信は切っても切れない関係にあり、それを実現する半導体チップとも切れない関係にある。こういった通信アクセスの集中を予知するためのAI(機械学習)を構築することがNokiaやEricsonなどから提案されている。基地局の各交換機やVoLTEなどに導入して輻輳の影響を最小限に抑えるAIチップは半導体が貢献できるソリューションの一つになるのではないだろうか。

米国ではIntelが巻き返すという記事が出ている。これまでIntelはGPU回路をプロセッサに集積したSoCを出してきたきたが、GPU単体をリリースするのは3月に発表された「ARC」が初めてである。GPUは画像処理ICではなく、グラフィックス、つまりお絵かき用のICである。デッサン、色塗りといったお絵描きの作業を行う専用チップだ。特に色塗り作業において、小さな積和演算回路を大量に並べて、1枚の絵のさまざまな色を並列処理で塗っていく。Intelが狙うのはゲーム用ソフトで表現するグラフィックス専用のGPUだ。特にNvidiaはリアルタイムRay Tracing機能を開発、写真か絵かを区別できないほどきれいな絵を描くことのできる技術を開発しており、ゲーム機用のパソコンのアクセラレータとして他社を引き離している。

Intelはこの市場に挑むわけだ。ただし、同時期に発表したゲームパソコン用の第12世代CoreファミリのCPUである「Alder Lake」と組み合わせて使う。このCPUはIntel 7プロセスで製造され、性能・消費電力が大幅に改善されているという。米国の証券アナリストはIntelがAlder Lakeで業績を伸ばしAMDは次世代CPU「Zen-4」が遅れていることから売り上げを落とすと見ているが、その説得力は乏しい。ただ、Intel、AMDともPC市場は縮小することから、共に伸びは期待できないかもしれない。

参考資料
1. 「通信網の危機管理甘く KDDI障害、トラブル連鎖、ドコモの教訓生きず 最大3915万回線に影響」、日本経済新聞 (2022/07/04)
2. 「KDDI、大規模通信障害 ATMや車など生活に影響−法人事業にも波及」、日本経済新聞 (2022/07/03)

(2022/07/04)
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