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TSMC熊本工場への4760億円の支援を決議、次は2nmの製造拠点計画も

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政府は17日、TSMCとソニーグループ、デンソーが熊本県で建設中の半導体工場の計画を認定、補助金を最大4760億円支給する、と6月18日の日本経済新聞が報じた。15日には、2nm相当の先端半導体の開発に取り組むという政府の方針を日経が報じている。政府が経済安全保障という言葉を使うのは、15日の日刊工業新聞によると米国の意志のようだ。

図1 内閣府首相官邸 出典:首相官邸ホームページ

図1 内閣府首相官邸 出典:首相官邸ホームページ


岸田政権はこれまで、経済安全保障の観点から半導体の国内生産を進める発言をしてきた。日本は半導体製造やそのための材料には極めて強いが、世界と戦える半導体企業が少なくなった。NANDフラッシュのキオクシア、CMOSイメージセンサのソニーセミコンダクタソリューションズ、マイコンやSoC(システムLSI)のルネサスエレクトロニクスがそれぞれの分野で上位のポジションを占めているが、半導体売上額が100億ドル以上の企業17社の中にはキオクシア1社しかいない。

さらにまずいことは、半導体を使うユーザーの購入額が日本は30年間減り続けているのだ。つまり半導体メーカーを強くしても、半導体製品を買うユーザーが日本にはいない。さらに半導体ユーザーが作る機器を利用してインターネットやITサービスを行う事業主も小さい。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に勝てるITサービス業者もいない。半導体を使うシステムのサプライチェーンの下流がいないために半導体は強くならない。

にもかかわらず、岸田政権が経済安全保障の観点から半導体を強くすると言っても、無理がある。米国はITサービス、半導体ユーザーであるシステムメーカー、半導体メーカーの3つが世界ナンバーワンであり、製造が少し弱いだけだ。製造を台湾に頼っているから、それを米国や同盟国においても製造を強化したいのである。このために経済安全保障と表現した。日本政府の言う経済安全保障は的外れの言葉だが、半導体製造を強化するという意味では米国の経済安全保障に追従していることになる。

これを裏付けるように、15日の日刊工業新聞は、半導体戦略推進議員連盟事務局長の関芳弘氏とのインタビュー記事の中で、同氏の「(日米)共同で(半導体に)取り組み、(中国など)技術力を強める国に対抗できるようにならないといけない。21年の菅義偉前首相とバイデン米大統領による首脳会談 で、半導体などのサプライチェーン(供給網)構築の協力拡大で合意したのは、そうした問題意識があってバイデン大統領から声がかかったと認識している」というコメントを掲載している。日本政府はTSMCへの誘致・支援などにより、本気で半導体を復活させようとしているのだという強いメッセージを公表した意義があるという。

4月に着工した熊本のTSMCの工場は、ソニーにデンソーが加わり、10〜20nmの半導体製品を月産5万5000枚生産する計画で、2024年12月に出荷を開始する、と日経は報じている。新工場の投資額86億ドルの半額近くを日本政府が支援することになる。認定を受け、TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)は17日、「日本における新しい工場を通じ、世界的な半導体エコシステムと地域社会の発展に貢献できると確信している」とのコメントを発表したという。

日本政府は熊本に続き、2025年度にも2nmの製造拠点を民間企業と連携して国内に整備する方針を固めたと15日の日経は報じた。これは、日米政府が後押しし、両国の民間企業が軸となって次世代半導体の設計と量産化に向けた共同研究を始めるとしている。日経は、「日米両政府は実際の研究や製造にあたるメーカーなどを絞り込む検討に入る。日米企業で新会社を共同設立する案や、日本企業が新拠点を設ける案などがある。経済産業省は研究開発や設備投資の一部を補助金で支援する方向だ」と報じている。

6月7日に政府が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」(参考資料1)では、以下のように述べられている;「量子コンピュータの大規模化・高機能化の研究開発については、半導体やBeyond 5G等の他の技術分野との融合やこれを応用する分野の研究も視野に入れた上で、日本単独で考えるのではなく、先行する有志国の企業との連携を実施するなどグローバルな対応を進める。このため、量子コンピュータ等の次世代計算基盤に不可欠な次世代半導体の設計・製造能力の確保に向けて、日米の官民が連携し、2020年代に設計・製造基盤を構築するためのプロジェクトを進める」。

すなわち、政府は半導体の先端技術しか見ていないことになる。今や半導体は、半導体のハードウエア回路だけではなく、半導体に組み込むソフトウエアやアルゴリズムも差別化技術となっており、微細化だけが技術力ではないことに政府はまだ気が付いていないようだ。

参考資料
1. 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)〜人・技術・スタートアップへの投資の実現〜」、経済財政諮問会議(令和4年第8回)・新しい資本主義実現会議(第9回) (2022/06/07)

(2022/06/20)

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