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EVのコスト削減、サブスクモデル、再エネ発電抑制などパワー半導体の新市場

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電気自動車(EV)が充電器のコスト削減やサブスクリプションモデル導入など新しい試みを推進しており、また再生可能エネルギー発電の出力を止めるなど、これからのパワー半導体の市場拡大の可能性が広がっている。経済産業省が名付けたグリーントランスフォーメーション(GX)は、皮肉にも日本が出遅れただけにパワー半導体市場の余地は広い。

半導体の使用数が通常のガソリン車よりも2倍以上増えると言われるEV車。その充電器を日本とインドが共同開発する、と5月7日の日本経済新聞が報じた。日本のCHAdeMO(チャデモ)規格を基に構造を簡略化し設置価格を現状の1/3程度の数十万円に抑える。充電器の価格を大幅に下げてインドにおけるEV普及を促進する。国内のCHAdeMO協議会がインドの充電規格の開発計画に協力する。年内にインド政府へ規格案を提出し2023年中にも公式規格として承認される見通しだという。充電出力を22kWと日本の半分に抑えることで価格を抑える。出力が少ない分、搭載する電池容量も少ないが、新興国では受け入れられると判断したとしている。

5月12日に発売するトヨタのEV車「bZ4X」は売り切りではなくサブスクリプション方式で販売する、と8日の日経が報じた。トヨタグループのサブスクサービスを提供するKintoを通じて国内で5000台を供給する。契約申し込み時に77万円必要だが、毎月の支払いは国の補助金や自動車税を含めて8万8220円となる。バッテリの劣化に対する消費者の不安を払拭し、さらにソフトウエアの更新(OTA:Over the air)などで顧客との接点を拡大する。

bZ4Xは、スバルと共同で開発した、トヨタのハリアーと同程度の大きさのSUVで、航続距離は560km。bZ4Xと同じクルマをスバルは「ソルテラ」と呼び、スバルは従来通り売り切りで販売する。クルマのサブスクという新しいビジネスモデルは、ある意味実験的な要素があり、bZ4XはKintoという会社を有効に使う実験でもある。

ゴールデンウィークの大型連休中は多くの企業が休むため、太陽光で作った電力が余るという事態が発生する可能性が指摘されている。6日の日経によると、東北電力など大手電力4社が再生可能エネルギーの発電業者に太陽光発電の出力を抑えるように要請した。再生エネの出力抑制は2018年10月に九州電力が初めて踏み切ったが、日本の電力網はあれから4年近く経っても、電力を融通する仕組みにまだ取り組んでいないようだ。

欧州では各国が電力を融通し合う仕組みができているため、ドイツのように再生エネを増やしても他国から電力を融通できる。日本は各地の大手電力会社が連係線を太くして地域間で電力を融通し合うことを想定してこなかった。国の電力広域的運営推進機関によると、送電線の容量を現在の約2倍に増やすには3兆8000億〜4兆8000億円の投資が必要とみるが、その実現はまだ宙に浮いたままである。米カリフォルニア州やオーストラリアでは、蓄電池を電力系統に組み込む施設が普及している。TeslaがEV用のバッテリの中古品を電力網に組み込んだ蓄電施設を各地に作っている。

以上述べてきたEV車や充電器、電力融通し合うための設備や蓄電設備、再生エネのソーラーや風力、水力などに施設では、パワー半導体、ドライバIC、マイコンなどの半導体がセットで必要となる。全国に50Hzあるいは60Hzのきれいな正弦波を描く交流電力を創り出すためにパワー半導体が欠かせないからだ。直流のバッテリや交流の風力からきれいな交流を作り出すためにはパワー半導体やマイコンによるPWM(パルス幅変調)制御技術を使う。

特に遅れている連係系統や再生エネ、蓄電設備など日本の電力事情は、パワー半導体から見ると未開拓の市場に映る。油断していると外国勢にさらわれてしまう恐れさえある。こういった分野にきちんと予算を付け、電力の運転コストを下げる策を実行することこそ、日本の産業を強くする一つの方策ではないだろうか。

(2022/05/09)

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