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パワー半導体の市場拡大が見えてきた、無線充電・EVスタンド・電力融通など

このところパワー半導体の需要の高まりを示す事実が続々出てきている。EV(電気自動車)市場の立ち上がりと共に充電設備の充実化、さらに電力供給不足による停電の解消、再生可能エネルギー導入の高まりなどだ。これらの事実はパワー半導体の需要拡大を示している。インドでも半導体産業が立ち上がりを見せている。ここでもEVとスマホがカギを握る。

図1 Volvoが始めたタクシー車のワイヤレス充電スタンド 出典:Volvo Cars

図1 Volvoが始めたタクシー車のワイヤレス充電スタンド 出典:Volvo Cars


スウェーデンのVolvo Cars社がEVのワイヤレス充電技術の実証実験をタクシー事業者と始めた、と3月25日の日刊工業新聞が報じた。ストックホルムに次ぐスウェーデン第2の都市ヨーテボリで、北欧3国最大のタクシー事業者のCabonlineと共同で、VolvoのEV車である「XC40リチャージ」をタクシーに使う実験だ(図1)。充電は駐車場の充電パッドの上にクルマが止まると自動的に行われる。実験で使うクルマ「XC40リチャージ」には360度カメラを搭載、充電パッドの位置を確認できるようにしている。充電電力は40kWで有線の11kWのAC充電器よりは4倍速いとしている(参考資料1)。タクシーは、1日に12時間以上使用されており、年間10万kmを走行する。

ワイヤレス充電器は確かに便利ではあるが、その前に急速充電器の設置も重要となる。最近のEVは、床一面に大量のバッテリを敷き詰める方式が主流となり搭載するバッテリ容量が拡大している反面、充電時間が長くなるからだ。10~20分以内の急速充電だと、満充電の80%程度に抑え、高電圧で一気に充電していくが、80%から満充電までは、過充電を抑えるように少しずつ充電せざるを得ないため、時間が長くかかってしまう。急速充電にはバッテリシステムよりもずっと高い電圧をかけるため、高耐圧のパワー半導体が欠かせない。

経済産業省は充電インフラの導入を支援するため、急速充電器を設置する駐車場や商業施設も補助対象に加えることになった。これは、25日の日本経済新聞が報じたものだが、25日にこの支援制度を公表、31日から申請受付を始める。経産省は21年度の補正予算に関連費用として65億円を計上した。日経は、「大型充電器の補助額も引き上げる。従来の上限額は計600万円だった 。充電口が3つ以上ある機器は口数に応じて1口300万円の補助金を支給する。6台充電できる機器なら1800万円まで補助する。新たに普通充電器の設備更新も対象に追加する」と報じた。

これまでのEVはバッテリを後部座席の後ろに設けていたため、車種ごとに重量バランスと安定性を設計し直さなければならずコスト的にできなかった。しかし、最近はバッテリを床一面に敷き詰める方式にすべての自動車メーカーが移行することになり、基本的な車台プラットフォームを数種類用意すれば数十種類の車種を開発できるようになるため、コスト面でEVが普及していく可能性が高まっている。

ところが、これまでのEVはコスト的に高く、補助金を得て購入しなければならず、普及が進んでこなかった。このため充電スタンドの利用者はまだ極めて少なかった。23日の日経産業新聞は、充電スタンドの伸び悩みを報道しているが、今後はEVの走行距離が延び、コスト的にも買いやすくなることで、充電スタンドはこれから普及するだろう。現在は、欧州も日本も米国も床一面にバッテリを搭載する方式を採用することなり、充電スタンド事業は数年の辛抱かもしれない。

3月22日の午後、東京電力管内で電力需要が急増し、停電の恐れについてメディアを通して警告していた。需要量が供給量を上回っていたからだ。管内以外の地域での電力を融通してもらう形で停電は免れたものの、電力融通網の構築が遅れている。数年前に北海道でも同様の状況が見られた。電力量を増やすだけではなく、日本各地の電力をもっと多く融通できる仕組みを作ることにも力を入れる必要がある。3.11でも電力不足を経験したが、残念ながらまだ生かされていない。欧州では各国単位で電力を融通し合っている。日本は1国なのだからこそ、各電力会社と政府が調整し合う話し合いで解決できるはずだ。予算はここに投入すべきで、原子炉再稼働云々はその後の議論のテーマである。

このような事情を考慮すると、パワー半導体の市場は広がっている。EVは言うまでもなく、電力網の融通や再生可能エネルギー、電力蓄電設備、どれも全てパワー半導体が欠かせない。どのような発電でも電力の周波数を50Hzあるいは60Hzにピタリと揃えなければならず、このためにパワー半導体がPWM(パルス幅変調)制御に求められるからだ。

また、インドで半導体産業が立ち上がる可能性が出てきた。2月14日に鴻海精密工業の子会社FoxconnとインドのVedanta社が共同で、半導体工場を設立することに合意した。3月25日の日経は、「2025年をめどに現地生産を目指し、政府も総額1兆円規模の補助金を打ち出し外資系企業などを誘致する」と報じた。インドには自動車とスマートフォンの工場があり、それらに向けた半導体工場は意味がある。同国の半導体市場は26年には630億ドル(約7兆6000億円)と20年の4倍超に拡大する見込みと伝えている。インドはこれまで政府が音頭をとって半導体産業を2006年と2014年頃に2度熱心に誘致してきたが、実らなかった。今回は鴻海という民間企業が主体だから、半導体産業が生まれる可能性は以前よりは高い。

参考資料
1. "Volvo Cars tests new wireless charging technology", Volvo Cars (2022/03/03)

(2022/03/28)
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