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洋上風力発電でパワー半導体に新市場、秋田沖に設置決まる

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世界的な風力発電市場において海上で風力タービンを設置するという洋上風力発電が稼働しているが、国内やアジアでも採用しようという動きが出てきた。洋上風力発電は直流送電で送られるためACからDCへの変換でSiC半導体が使われる可能性は高い。ロシアへの経済制裁で半導体不足解消が今年いっぱいかかりそうな見通しが出ている。

図1 洋上風力発電の仕組み 出典:London Array

図1 洋上風力発電の仕組み 出典:London Array


再生可能エネルギーとして風力発電所がドイツをはじめとする欧州で設置されているが、騒音が大きいなどの点が指摘されており、海上に設置する発電所が増えている。国内でも秋田沖に設置する洋上風力発電業者が決まったと3月10日の日本経済新聞が報じた。海運大手の日本郵船が秋田県と包括連携協定を結び、秋田市内に支店を4月に開設する。日本郵船は洋上発電所を建設するための専用船や作業員の運搬船などを投入する。計画では、秋田沖の能代市、三種町、男鹿市沖に38基(合計出力48万kW)の風力発電所を設置、2028年12月の運転開始を目指す。さらに由利本荘市沖にも65基(同82万kW)を計画しており2030年12月の稼働を目指す。

国内では福島沖にすでに福島洋上風力コンソーシアムが2011年以降、実証実験を行ってきた。初期の設備のままではコスト的に見合わないことから撤去することが決まったが、研究してきた浮体式洋上などのノウハウを本格的に稼働させるときに今後の展開に活かす。例えば、コストを下げるためドローンを使った点検などの研究開発を秋田県側で始める計画だ。

アジアでも台湾をはじめ東南アジアやインドにも特に欧州のエネルギー企業が攻勢をかけていると、11日の日経が報じた。ドイツの再生エネ大手のwpd社が台湾で原発1基分に相当する100万kW超の電力を台湾の半導体製造企業と売電契約を結んだ。今回の契約で電力の半分は陸上、残りは洋上から供給するという。wpd社は長崎県沖の洋上発電への参画も表明している。

洋上発電では、陸地へ送電する場合に50km以上であれば交流よりも直流の方がコストは下がっていくという経済産業省の試算がある。発電所から海を経由して遠方へ送る場合には直流発電はロスが少ないため、直流が使われる可能性が高い。風力発電では現在、パワートランジスタとしてIGBTが多く使われているが、ロスを少しでも減らすためにSiCへの移行は自然の成り行きとなる。交流電力を送る場合でも、電圧周波数を50Hzあるいは60Hzに揃えるために、風車タービンが発電した電力をいったん直流に変え、PWM(パルス幅変調)によって周波数と実効電圧を送電線の交流電力にピタリを揃える必要がある。このためにパワートランジスタやそのモジュールが必要になる。多少の初期コストよりも長い運転コストを考えると少しでも効率が高い方が優先される。

ロシア-ウクライナ戦争でロシアへの経済制裁などにより半導体の供給がさらに不足するという指摘が出ているが、11日の日経でも半導体の供給不足ですでに値上がりしてサプライチェーンに混乱が来ている、と投資銀行Natixisのアナリストが指摘する寄稿が掲載されている。半導体設備投資額が台湾で急増しており、半導体不足は22年にやや改善すると見ているが、戦争によりレアアース(Neなどの不活性ガスを指していると思われる)などの供給が生産のボトルネックになる懸念はあるとしている。

半導体設備投資の一つとして、日本でも半導体製造に使われるスパッタリングターゲットを増産する動きがある。JX金属はスパッタリングターゲットの新工場を米国アリゾナ州で120億円を投じて設立する。2024年度にも稼働させる予定だ。同州に約26万平方メートルの土地を3月中に申請するという。アリゾナ州はIntelが工場を持っている所だ。

またダイキン工業は、中国リスクに対処するため、メキシコ産の原料を元にフッ化水素酸(HF)を生産する、と9日の日経は報じた。日本はフッ酸の原料となる蛍石(CaF2)を9割以上中国から輸入してきた。蛍石は世界で年700万トンが産出され、このうち中国産は6割を占めるという。ダイキンはメキシコ産の蛍石を使い日本でフッ酸を生産するため、工場新設を検討し始めた。現在は用地を選定中だ。投資額は数百億円と見込まれている。メキシコ産の蛍石にはヒ素(As)が含まれており、これを固形化して廃棄処理すると報じているが、ヒ素も半導体製造には欠かせないはずである。

(2022/03/14)

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