次世代送電網構想に見るパワー半導体の新市場
新年あけましておめでとうございます。今年のキーワードはやはり脱炭素であろう。2022年早々、1月3日の日本経済新聞の1面トップ記事で、政府は再生エネルギー普及に向け次世代送電網を整備する、と報じた。次世代送電網とは何か。実はここにSiCパワートランジスタなどパワー半導体の市場が大きく開ける可能性がある。
図1 陸上風力発電の盛んなドイツ
次世代送電網とは、風の強い北海道や太陽光がサンサンと降り注ぐ九州など地方における発電拠点から関東や関西地域に電力を送るスマートグリッドのことだ。これまでは、日本の各地域に於いてそれぞれの電力会社が発電・送電を行ってきた。北海道は北海道電力、東北地方は東北電力、関東地方は東京電力、といった具合に、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、そして沖縄電力という電力10社がそれぞれの地方に電力を供給してきた。
最近では、電力の自由化により発電と送電、売電が分離され、ガス会社や石油会社などが電力事業に参入してくるようになった。ガス会社は電力とセットで安く提供できることを訴求し、石油会社も電力の割引価格を提案している。しかし、電力会社の送電網を借りるという形でサービスを行うだけで、日本全体の電力の効率化にはほど遠い。
もし全国各地の電力を融通し合えれば、例えば電力が余っている地域から電力不足の起きている地域へ十分賄える電力を融通し合うようにできれば、日本全体で効率よく電力を使うことができる。そのためには、各地の電力会社から他の電力会社へ融通し合える電力を大きくすることが求められる。実際、欧州のEU諸国では各国の電力を互いに融通し合うことにより、電力の安定化を図っている。
今回の政府の構想は、都市部の大きな消費地に地方の再生可能エネルギーを送る送電網を作るというものだ。岸田文雄首相は2022年6月に初めて策定する「クリーンエネルギー戦略」で示すよう指示した、と3日の日経は報じた。総額2兆円超の投資計画を想定する。
この計画では、主に三つの地域での増強を優先するとしている。一つは、北海道と東北・東京を結ぶ送電網の新設だ。これは、平日昼間に北海道から東北に送れる電力量は現在最大90万kWしかない。北海道から東京までを4倍の同400万kWに増強する。30年度を目標に北海道と本州を数百kmの海底送電線でつなぐという。30年時点の北海道の洋上風力発電の目標(124万〜205万kW)の2〜3倍にあたる電力を送ることになる。
もう一つは、九州と中国の増強である。これも現在280万kWの送電網を560kWまで送れるように拡大する。これは10〜15年で整備する。三つ目は、まだ検討中であるが、北陸と関西・中部の増強である。北陸から中部へ30万kW、関西へ190万kWを送れるようにするというもの。
こういった送電網の整備に使う電源には再生可能エネルギーへの割り当てを増やす。従来は交流電力を全国各地に送り出しているが、これを直流送電にする。交流だと電流が行ったり来たりするため電力線上でロスを生じるが、直流送電だと電流が一方向にしか流れないためロスが少ない。風力発電で生じる電力を直流に変換するためにはできるだけロスの少ないパワー半導体を使う必要がある。ここに高耐圧のSiC MOSFETが出番となる。
洋上風力発電に関する政府の検討会では、洋上の発電機から直流に変換して陸上に送る方式が有力視されている。福島沖から房総半島を経て東京圏に直流送電するという検討が始まっている。陸地では企業や家庭電源にするため交流に変換するが、安定的に電力を供給するためには、それぞれから供給される交流電力の位相もピタリと合わせなければならない。パワー半導体やドライバ、マイコンなどのコントローラがここでも欠かせない。政府の再生可能エネルギー政策は、半導体市場にとっても有利に働くことになる。