日産、EVへの2兆円投資、EVスタートアップとの競争の時代に
日産自動車が2026年度までに電気自動車(EV)の新車開発に2兆円を投資すると発表した。このニュースは世界中を駆け巡り、EV開発への関心は高まっている。EV化は、これまでの欧州中心から米国でもスタートアップが続出しており、世界の自動車産業はEV化へまっしぐらに進んでいる。EVを前提とした自動運転車のスタートアップへの投資もうなぎ上りだ。
ちょうど1週間前、日産は社長兼CEOの内田誠氏と、COOのAshwani Gupta氏が日産の今後の戦略である「Nissan Ambition 2030」を発表した(参考資料1)。この場で、2兆円投資を発表、世界のメディアが続々報じた。2030年度までに新車販売の5割を電動車にするという目標を立て、まず前半の2026年度までのロードマップを描いた。
2026年度までの5年間でハイブリッド車を含む電動車への研究開発と設備への投資を2兆円とし、電池の研究開発と量産工場へ準備をほぼ同時に進めていくと述べた。11月30日の日経が報じたように日産は、20年度までの約10年間で1兆円を電動化に投じてきた。これからは30年度までに23車種以上の電動車を市場へ投入する、という計画だ。
技術的には、実は最初に出したEV車の「リーフ」のバッテリパックはモーターと共に後方に配置されたため、トヨタ自動車のプリウスのようにトランクルームが狭くなり、使い心地でEV専用のTesla社のモデルS以降のクルマとは大きく差が開いた。TeslaのモデルS以降、世界のEV車は、リチウムイオン電池セルを床一面に敷き詰めるバッテリパックを車台プラットフォームとして用いる方式に代わっている。クルマの安定性が増すと共に居住空間が広くなるからだ。Teslaのクルマは前も後もトランクルームは広く空っぽで、さまざまなものを運べるようになっている。
図1 日産が提示したEV車台プラットフォーム 出典:典:Nissan Ambition 2030 ビデオからスクリーンショットで作成
日産はEV車「アリア」からこの車台プラットフォームを採用した(図1)が、このプラットフォームを量産し、上に載せるボディを変えることで車種を変えることができる。つまり共通のプラットフォームを用いることで低コスト化を実現できる。このプラットフォームには単三サイズよりやや長い電池セルを直並列に数十個並べたバッテリモジュールを10個前後並べてプラットフォームのバッテリパックを作製する。もちろん、全ての車種を一つのプラットフォームでカバーできるわけではないが、数種類のプラットフォームで数十種類の車種を賄うことができる。
イスラエルのEVスタートアップのREE Automotive社は、この車台プラットフォームだけを作製し、EVメーカーに提供するというサービスを始めている。4つの車輪を独立に動かすことのできるインホィールモーター方式を採用、サスペンションとブレーキシステムも車輪と共に形成している。タブレットや大型スマホで操作でき、すでに走行デモも見せている(参考資料2)。
日産は、電池セルに関するロードマップも発表した。セルの正極や負極の材料、電解質などを改良する新しいリチウムイオン電池の開発により安定で、かつ低価格の電池セルを開発する。2028年までに現在のコストより65%も低い$75/kWhの電池を開発し、さらに固体電解質を使う全固体電池を実現することで、ガソリン車並みの$65/kWhまで安くする計画だ。
米国では、Teslaに続くEVスタートアップRivianが先月ナスダック株式市場に上場した。小型トラックやSUVのようなアウトドア車を発売し、初日にIPO価格から29%高になり、時価総額は一時、900億ドル(約10.2兆円)を突破した。FordとGMの時価総額はそれぞれ790億ドル、850億ドルであるから、自動車産業の巨人と肩を並べる価値があるといえる。Rivian以外にもLucid MotorsやWaymoなど米国にはEVスタートアップが続出している。
参考資料
1. Nissan Ambition 2030
2. REE Automotive社のホームページ