脱炭素とSDGs実現のカギは、半導体
脱炭素や、SDGs(持続可能な17項目の目標)を達成するために半導体が重要な役割を果たすことが明確になってきた。10月25日の日本経済新聞は、人工衛星を使ったSDGsの取り組みを紹介している。脱炭素は衆議院選挙の争点の一つにもなっているが、半導体はそれを達成するためのテクノロジーの一つだ。EV向け電池生産にトヨタも力を注ぐ。
図1 国連で定められたSDGsの17項目
SDGsは、貧困撲滅や飢餓の撲滅、健康と福祉の提供、安全な水など17項目に渡る持続可能な社会を実現するための開発目標である(図1)。エネルギーのクリーン化、海と陸の豊かさを守るという脱炭素化もその一環である。日経の記事で事例として紹介されたのは、衛星を使った貧困の実態を把握するという測定技術や、海洋汚染や森林調査、衛星通信、衛星写真によって収穫時期や肥料の最適な量などを調べる技術である。記事中では半導体に触れていないが、これらの技術はすべて半導体チップがカギを握る。最近、半導体のことを「Heart of system(システムの心臓)」と表現するコピーが目に付くようになっている。
統計の未整備な途上国では貧困世帯の暮らす地域、道路状況、住まいの屋根などの衛星写真による観察から推定する。また海洋汚染や熱帯雨林の衛星画像からこれまでにない精密な監視が可能になったという。災害時の通信回線としての衛星や農業の収穫状況を知ることにつながり途上国の食糧の改善支援になりそうだ。衛星写真、通信、AI分析、どれも半導体なしでは実現できない。
衛星写真と同様、ドローンの利用もSDGsの実現に有効な手段となる。ドローンは携帯電話のセルラーネットワークを利用すれば数km先まで荷物を届けることができるようになる。すでにKDDIはカメラ画像による広域監視や鉄塔点検などのサービスを4G(LTE)を使って提供しているが、NTT東日本は5G利用してドローンの商用化ビジネスに乗り出すと22日の日経が報じている。
これまで半導体産業の真っ只中にいると、性能向上と消費電力の削減は当たり前と思われている。しかし、半導体によるシステムの小型軽量化は、システムメーカーから見ると極めて大きなメリットになる。例えば、5G通信機器メーカー大手のEricssonは、MIMO(Multiple Input Multiple Output)無線機の重量が独自設計チップのおかげで従来の1/4〜1/3の大きさになったと発表した。このことから、従来だと屈強な男性しか扱えなかった40〜50kgの装置がわずか12kgになり、女性の作業員でも扱えるようになった(図2)、と訴求している。このことは実際の作業を行える人材の多様化を意味する。まさにSGDsの一つ、ジェンダーの平等でもある。
図2 女性作業員も運べる12kgのMIMO通信機 出典:Ericssonのニュースリリース
脱炭素では、日本は昨年10月の菅首相の所信表明演説で、2030年時点で温室効果ガスを2013年比で46%の削減を目指すとしている。日本はCO2削減で先進国の中では大きく遅れている。2011年の3.11以降、再生化のエネルギーに関しては遅々として進まず、2018年になってようやく、再生可能エネルギーの主力電源にするとエネルギー基本計画に明記された。この間、英国は2010年に7%しかなかった再生可能エネルギーの比率を2020年には43%まで高めた。衆議院選挙の論争に脱炭素政策が上がっているが、脱炭素はもはや待ったなしである。
19日から始まったCEATECでも脱炭素はキーワードとなっている。再生可能エネルギーや蓄電池は言うまでもなく、そのエネルギーを100V/200Vの商用電源に変換したり、電力変換効率を最大限に持っていったりする技術などには半導体チップが欠かせない。それも効率を従来よりも上げようとすると独自仕様にチップが必要とされる。
トヨタ自動車は米国にEV向けの電池工場を建設、生産に踏み切ると20日の日経が報じた。バイデン政権が1740億ドルの支援策を打ち出し電動車の普及を目標に掲げたからだ。米GMやFordなどもEV投入に力を入れているほか、LGと欧州Stellantis社(仏PSAと伊FCAの合弁)も北米に電池生産工場を建設し24年生産開始を目指すとしている。電池のモニター管理に欠かせないBMS(バッテリ管理システム)用の半導体チップの需要も高まることになる。
半導体産業は2050年のカーボンニュートラルに向けて生き残る産業であるといえそうだ。