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TSMCの日本工場が決定、脱炭素への半導体産業の動きも顕著に

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TSMCがついに日本にも半導体工場を設立することを正式に発表した。日本で22nmおよび28nmのチップを2022年に建設を開始、24年に操業する計画だ。また、脱炭素に向けた行動計画の開示を企業に求める新指針をTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が発表した。また、量子アニーリングが実証実験から実用化に一歩前進した。

TSMCの日本における工場建設は、10月14日に開催されたTSMCの2021年第3四半期における決算報告の席上、同社CEOの魏哲家氏が述べたもの。この発表内容は、15日の日本経済新聞に掲載されたのをはじめ、台湾の台北時報(Taipei Times)にも掲載されている(参考資料1)。TSMCが日本に工場を設立することを決めた決定打は、「当社の顧客と日本政府からこのプロジェクトをサポートする強いコミットメント(約束)をいただいた」と同氏が述べたことによる。日経は、TSMCとソニー、デンソーと共同で熊本県に新工場を建設する方向で調整を続けている、と報じているが、台北時報では合弁かどうかについては回答を避けたと述べている。

このニュースを受け、岸田文雄新政権も経済安全保障の立場から歓迎すると述べている。日本における経済安全保障とは何かについて、新政権は明確に定義していないものの、米国におけるそれは明確だ。近い将来、中国が台湾を占領するというリスクが高まってきたことに対処するもので、半導体チップ製造というサプライチェーンを確保するという意味の経済安全保障である。だから米国政府は半導体製造を強化するためTSMCをアリゾナ州へ誘致した。「14日夜に記者会見した岸田文雄首相は『TSMCの総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援を経済対策に盛り込む』と表明した。政府は31日投開票の衆院選後に編成する21年度の補正予算案に、TSMCへの補助を念頭にした数千億円を組み入れる予定だ」と日経は報じた。

地球の温暖化ガスを減らすための実際の行動指針がTCFDから発表され、日本では2022年4月以降、上場企業の一部に新しい指針に基づく開示ルールが事実上、義務付けられることになる、と日経は述べている。ここでは具体的なCO2削減目標を企業ごとに設けることになる。

東京エレクトロンはSGDs(17項目からなる持続可能な開発目標)の一環としてCO2削減に向けた活動を公表した。全社でCO2を削減する2030年に向けた目標として、半導体製造装置製品の低消費電力化で30%削減、事業所から排出されるCO2を70%削減、とする。同社は環境にフォーカスしたE-Compass(Environmental Co-creation by Materials, Process and Subcomponent Solution)という活動を展開しており、気候変動や、国際的に規制に対してプロアクティブに行動するため、そして社会になくてはならない半導体産業としての責務という三つの理由で活動指針を決めた。

これまでの実績では、トラックから鉄道輸送に替えて2013年以降に162トンのCO2削減や、段ボールやエアキャップなどを年間1万4000個削減した。

CO2削減の一環として、EV(電気自動車)化が中国とインドで進んでいる。中国ではこれまでの乗用車だけではなくトラックもEV化しようという動きが急になっている。「中国自動車大手、東風汽車集団のグループ会社である東風小康汽車は、物流大手のSBSホールディングスに1トン積載のEVトラックの供給を始めた。EVスタートアップのフォロフライ(京都市)が設計し、東風小康が生産。SBSHDは2030年までに別の中国メーカーに発注する1.5トン車と合わせて、計1万台のEVの供給を受ける計画だ」と12日の日経は報じている。

インドでは、タタ自動車がEV開発に向け約1100億円を調達すると発表した(14日の日経報道)。タタはすでにEVを9月時点で累計1万台を出荷したが、今回の調達は、新設するEV子会社に向け2022年末までに段階的に投資するというもの。

ルネサスエレクトロニクスは、中国EVの大手BYDと戦略的なパートナーシップを結び、数年後に発売されるBYDの新型EVに必要なマイコンなど複数の半導体を供給する。今回の提携で、エンジンなどの各種制御から電池管理、車載通信まで幅広い製品を供給する。

量子コンピュータの一つ、量子アニーリング技術を応用したCMOSチップで日立製作所の中央研究所が開発した「CMOSアニーリング」技術が鉄道の運行計画に採用されそうだ。13日の日経によると、国内鉄道会社と組み1日440本の列車が運行する区間で実証実験したところ、約1000万の組み合わせから最適な配置を選んだ。通常は数日かかるところ大幅に短縮でき、鉄道運行に必要な乗務員数も従来より15%減らせた。22年度をめどに商用化し、海外展開も視野に入れる。量子アニーリングは、巡回セールスマン問題を解くのに適しており、日立は元となるIsingモデルを原子のスピンではなくCMOSのメモリ回路で表現している。

参考資料
1. Wang, L, "TSMC plans new plant in Japan", Taipei Times (2021/10/15)

(2021/10/18)

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