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自動車業界が半導体を「産業の心臓」とその重要性を認識

半導体不足は当分解消される見込はないが、自動車メーカーがこれまでのジャストインタイム方式を見直し、半導体の在庫期間を数カ月程度と長くする方向へと切り替える。同時に、ユーザーである自動車メーカーが半導体の重要性を認識し始めた。

9月16日の日本経済新聞は、「トヨタ自動車や日産自動車、スズキは半導体の在庫を積み増す」と報じた。トヨタは半導体の在庫水準を従来の3ヵ月分から5ヵ月分まで増やすよう、一部の取引先に伝えたという。日産は、従来1ヵ月分だった半導体の在庫を、自社と部品メーカーで合わせて3ヵ月以上にすることを検討中で、スズキは数ヵ月分を持つよう部品メーカーに通達した、としている。

今回の半導体不足のきっかけとなった要因は、新型コロナ下での自動車工場の生産再開に伴いジャストインタイム方式による、半導体在庫を持たない方式であった。在庫が切れたからといって、半導体を翌日納入するわけにはいかない。生のウェーハ投入からだと3〜4ヵ月はかかるからだ。車載半導体を増強しているうちに、在庫を持っていたスマートフォンやコンピュータ用の半導体までが足りなくなってしまった。他の部品はともかく、半導体は生産にとても時間のかかることを、半導体ユーザーが認識するようになったことは、半導体が重要な産業であることを知るための一歩前進かもしれない。これまでは日本の半導体産業は重要ではないという認識が世間を占めていたからだ。

半導体産業の重要性は、9月20日の日経にも「もはや(産業の)コメではない。(産業の)心臓だ」という元日本自動車工業会の会長で現在INCJ(旧産業革新機構)会長である志賀俊之氏のコメントにもよく表されている。同氏は続けて、「半導体が産業構造の主導権を握る。リソースを割かないと自動車メーカーも国も勝ち残れない」と述べている。


図1 クルマにはさまざまな所にさまざまな半導体が使われている 出典:Analog Devices(旧Maxim Integrated)

図1 クルマにはさまざまな所にさまざまな半導体が使われている 出典:Analog Devices(旧Maxim Integrated)


昨年秋からもう1年にも渡って半導体不足が続くのは、これまでのようなスマホやパソコンの需要だけではなく、もっと広がっているからだ。クルマ自身でさえ、従来の内燃エンジンから電気自動車(EV)へ移行するのにつれ、これまで必要のなかった新規需要(駆動モーター向けのインバータや、回生ブレーキ用オンボードチャージャー、300〜400Vの高圧からICの電圧を変換するDC-DCコンバータ電源、バッテリのセルを1個ずつ充放電状態を管理するシステムなど)が追加される。さらに自動運転や衝突防止、事故防止、死亡事故削減のためのテクノロジーも追加され、ますます半導体需要が拡大している(図1)。

もちろん、これだけではない。コンピュータは従来の汎用x86チップからエネルギー効率の高い独自SoCへとデータセンターなどクラウド需要も増えている。これまでチップを使うことのなかった工場や産業機械、オフィスまでもデジタルトランスフォーメーション(DX)による半導体新規需要が増えている。こういった新規需要では、AIやIoT、5Gといった新技術でエネルギー効率の高い製品を提供するため半導体が欠かせない。

東京大学d.labセンター長の黒田忠広教授は「半導体が産業のコメではなく、人間でいう神経に変わったのだ」、と表現する。神経がストップすれば考える頭脳もストップする。だから日本経済全体がいつまでも停滞していると主張する。

これから先の半導体を確保する上で、「半導体メーカーと顧客だけではなくサプライヤーとの間でも受発注の短期的な変動を抑えられるよう長期契約などについて話をしている」、と述べているルネサスエレクトロニクスCEOの柴田英利とのインタビュー記事(9月15日の日経)は、これからの半導体企業の在り方を示している。

(2021/09/21)
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