政府の成長戦略会議の議題に半導体が載る、秋までにまとめる
半導体不足をきっかけに、半導体の重要性が少しずつ浸透し始めた。政府は9月2日の成長戦略の中で、経済安全保障(半導体の重要性)と人の問題に触れている。半導体不足、EV化でますます重要になる半導体SoCに関して日刊工業新聞が伝え、クルマ産業の人材が中国へ流れている様子を日本経済新聞が伝えている。
9月3日の日経は、政府が開催した成長戦略会議の様子を伝えた。人への投資や経済安全保障などの分野での追加支援策を秋にまとめる方針を確認した、と報じた。会議では第1にグリーン分野の新たな投資を進め、2035年の新車販売電動車(EV)100%の目標に向けて、蓄電池の国内生産、充電設備の整備を進めるとしている(参考資料1)。人への投資に関しては、フリーランスを保護する法整備や労災加入の制度改正や、非正規労働者の移動を円滑にする仕組みに関して言及しているだけに留まる(参考資料2)。
経済安全保障に関しては先端的な半導体工場の立地などに取り組むほか、レアアースなどの重要物資のサプライチェーン、次世代データセンターの最適配置の推進、重要技術の育成支援の4つのみ。半導体は残念ながら、立地支援しか言及していない。ただし、成長戦略の中に半導体が入ったことは評価できる。
人に関して、9月3日の日経は「世界最大である中国の自動車は市場に活躍の舞台を求める日本人技術者が増えている」と報じた。トヨタ自動車で主力セダン「カムリ」のチーフエンジニアを務めた人や品質管理の専門家、日産自動車に在席していた複数のエンジニアなどの氏名を明らかにして報じた。さらにホンダは、4月に募集した早期退職者が2000人を超えたことを受けて中国の自動車メーカーが接近している。日経は、日本の半導体エンジニアが韓国Samsungに大量に移ったことと同じことが自動車でも起きることに警鐘を鳴らしている。政府の戦略会議資料には、優秀な人材が中国へ流出していることには全く触れていない。
半導体不足は7月の国内乗用車メーカーの世界生産が2%減少したと3日の日経産業新聞が伝えた。「7月にはマツダが国内工場の一部生産ラインを10日間止めた。日産自動車やスズキ、SUBARUも国内工場を一時停止した。海外ではホンダや日産が半導体部品の不足に伴い、米国や中国で生産調整した。8社の国内生産は前年同月比2%増の68万8000台で、海外生産が3%減の126万6000台だった」と報じた。これまで4〜9月に減産した分を10月以降の増産で挽回する考えだったが、難しくなった、と報じた。
さらに半導体不足はエアコンの生産にも波及していると1日の日経が伝えた。7月の鉱工業生産指数が前月比1.5%減となり、自動車や電気・情報通信機械も3.4%減となり、エアコンやリチウムイオン電池などが落ち込んだとしている。
9月2日の日経は、ルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長とのインタビュー記事を掲載し、設備増強に関して言及した。ルネサスはファブライトの方針を続けており、8月27日に同社滋賀工場の不動産業者に売却することを発表したばかり。売上額が占める設備投資の比率を5%程度としていたが(前期の投資額は220億円で3%)、今後3年間で思い切った投資を行うと述べている。加えて災害時などに備えた設備強化に100億円超を投じるとしている。
1日の日刊工業は、自動車業界の中で、半導体を部品調達としてではなく、設計開発を自社に取り込む方向へと動いていると報じた。デンソーは、パワー半導体やセンサは内製の強みを持つが、課題はSoCだという。米Teslaが自前のSoC「FSD(Full Self-Driving)チップ」を自主開発したように、「半導体技術は絶対に持っておかねばならない。必要な範囲で手の内に入れる」、とデンソー幹部は言い切ったと報じている。デンソーとトヨタ自動車の共同出資の半導体設計会社のミライズテクノロジーズは、幅広く売れる半導体開発を目指すとしている。
参考資料
1. 令和3年9月2日成長戦略会議、首相官邸 (2021/09/02)
2. 「成長戦略の秋に向けた検討課題案」、資料1、内閣官房 (2021/09/02)