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日経記事「日本の半導体、再興なるか」から読み取る日本復興への示唆

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8月9日の日本経済新聞は、「オピニオン1 複眼」というコラムで「日本の半導体、再興なるか」と題した、4名の識者の意見を掲載した。自民党半導体戦略推進議連会長の甘利明衆議院議員と、台湾ITRI(工業技術研究所)の蘇孟宗所長、東京大学で産学連携拠点RaaS(先端システム技術研究組合)を立ち上げた黒田忠広教授、そして元日立製作所専務で半導体事業を率いていた牧本次生氏の4名である。

このコラムで甘利氏は、「今は微細加工の技術競争が限界に近づき、主役が交代するゲームチェンジの場面に入りつつある。政府は10〜20年後の半導体産業の未来図を示し、研究者らと共有すべきだ。相当な覚悟で食い込まなければ追いつけなくなるのではないか」との見解を示し、「政府は短期間で成果を得ようと、TSMCの誘致に予算を投じるだけで終わってはいけない」と釘を刺した。

ITRIの蘇氏は、「台湾の半導体の優位性は2030年までは問題ないとみている。だがその後は分からない」と台湾を冷静に分析し、将来に向けた「課題はやはり、先端の研究開発を支える半導体人材の確保だ。米国は半導体の生産は弱いが、基礎科学で優秀な人材が豊富だ。日本も材料開発やICTなど先端技術に強みを持つ人材が多い。一方、台湾は生産面の人材は強いが、研究開発人材が手薄で弱い」として生産技術で台湾は有利でも、研究開発では日米が強いと認めている。

黒田氏は、「ゲームチェンジが起きている今こそ、『敗者の一発逆転』の戦略を打ち出す時だ」と述べ、今ならまだベテランエンジニアが舞台裏で控えているから、若いエンジニアと一緒に、次の半導体を開発できると見ている。ここでは「特定用途の専用チップを要領よく低コストで少量生産する力が問われている。そのために必要な技術とサービスを、半導体メーカーが提供できるかが勝負だ。一つのチップに電子回路を詰め込む技術は、平面では微細化に限界がある。ならば何層にも重ねて集積度を上げる方法がある。この3D空間が 次の競争の舞台だ」という。

牧本氏は、「(日本の半導体が衰退した理由の)一つは市場を読む力がなかったことだ。テレビやVTRなど日本製の家電製品が世界を席巻していたが、需要の中心はパソコン、スマホへと移っていった。親亀である家電がこけたら、子亀の半導体もこけた」と述べ、加えて、日米半導体協定で国内の外国製品のシェアを20%以上にすべきと定められた」理不尽な日米交渉の措置にも言及した。

ではこれから半導体を復活させるために必要なことは何か。牧本氏は、「素材や製造装置など、日本は川上の分野が強いが、川上をテコ入れして、ファウンドリを台湾から誘致するだけでは、半導体産業は復興しない」として、メーカーが何を作るかを考えなければならないという。

ITRIの蘇氏も、「(半導体の産業育成で)重要なのは、(半導体)企業がまずどんな戦略を持つかだ。次に、それを国として、どうサポートできるかを考えることが大切だ」と述べており、半導体企業への国のサポートがとても重要になる。このことは数社がまとまってコンソーシアムを作っていたかつてとは違い、一つの半導体企業に国(経済産業省)が支援できるかどうかにかかっている。これまでの経産省は1社のためには支援しないと言っていた。

日本の総合電機は、牧本氏の言われる通り、市場を読むことができず、半導体のけん引が民生家電からITへ移ったことに対応できなかった。そしてITは「大型コンピュータからパソコン、スマートフォンに移り、ユーザーが求める製品の変化を取り込めなかった」(甘利氏)。残念ながら、デジタル化を口にする総合電機の経営者は今、「半導体は外から買ってくればよい」という姿勢であり、未来に対する期待はできない。

今後の大きな需要は、「広義のロボティクスだろう。自動運転、介護ロボット、工場の製造機器など、センサーと人工知能(AI)によって自律的に動くモノが無限に増える。賢いロボットの頭脳にあたる半導体が決め手となる」(牧本氏)ことから、総合電機ではなく、日本が強い産業機器メーカーや自動車、通信などの企業が半導体をけん引することになる可能性を秘めている。ということは、今後、これらの産業用メーカーと半導体メーカーがもっと密に連携し、これからの未来を切り開くビジネス戦略を練り、ここに頭脳となる半導体を使うことで日本がグローバルな競争に勝てる可能性がある。技術的には、従来の自動化ではなく、自律化がカギを握ることになる。

参考資料
1. 「日本の半導体、再興なるか」、オピニオン1 複眼、日本経済新聞、 (2021/08/09)

(2021/08/10)

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