TSMCの国内誘致は国益になるか、Intel CEOが疑問を投げかける
TSMCの米国誘致とインセンティブに対する反対意見が出てきている。Intelの新CEOであるPat Gelsinger氏が、TSMCをアリゾナに誘致して補助金を出すよりも、米国メーカーに出すべきだと示唆している。日本の経済産業省がTSMCを日本に誘致することにもつながる事実であるから、簡単に紹介しよう。
Pat Gelsinger氏は、米連邦政府が進めているTSMCへの補助金は米国の競争力を却って損なうという論文を政治関係論文誌Politicoに寄稿したことを、7月16日の日本経済新聞とNikkei Asiaが伝えた。記事の原文は、6月24日付けのPoliticoに掲載されており(参考資料1)、タイトルが「製造以上に重要なこと:チップ生産への投資は米国を優先すべき」となっている。
米国イノベーション・競争力法(USICA: United States Innovation and Competition Act)は議会に提出されているが、その中身は米国の国防と経済に深く関わっている。同氏の寄稿記事では、USICAの根本精神を紹介し、米国のイノベーションと知的財産(IP)を推進するために政府は投資すべきであるとし、外国企業よりも米国企業への投資を優先しよう、としている。米国の補助金を求めて競っている外国企業は、自国のIPの価値を高めることになるとして、米国のためにはならないと示唆している。またアナリストの言葉を引用し、TSMCは(5nmプロセスの)アリゾナ工場よりも(3nm以下の)先端プロセスを台湾で作るだろうとする。
同氏は巧みにホワイトハウスのレポートも引用し、USICAのゴールを実現するためには、IPと製造とのつながりを強め維持しなければならないと述べた。そして、米国政府の半導体産業への投資のリターンを最大にするためには、一連の目的の下で、先端半導体プロセス技術と製造の開発を鼓舞する必要があるとした。
そして「Intelが200億ドルの投資を決めた時には財政支援というインセンティブなしだった。ニューメキシコ州に35億ドルを投資して先端パッケージング工場を建てるプロジェクトも同様だった」と述べた。さらに同氏は、ファウンドリサービスを展開するために製造およびパッケージング工場を米国と欧州に作ることも強調している。Gelsinger氏は記事の中で明確に述べていないが、TSMCへの補助金に反対していることは明らかである。
ただ、一方で、Gelsinger氏はEUに対して、欧州におけるサプライチェーン問題を解決する策の一つとしてファウンドリ工場を作るのであるからEUにインセンティブを求めている、とIT・エレクトロニクスのメディアsdxcentralが伝えている(参考資料2)。その金額が100億ドルだという報道に関しては、Intelは否定している。
Gelsinger氏のコメントは、TSMCを日本へ誘致することに躍起になっている経済産業省への痛烈な批判ともとれる。TSMCの誘致が日本の半導体を活性するかどうかに関しては、これまでの外国半導体企業の日本工場を見ていればわかる。富士通三重工場はファウンドリのUMCに、エルピーダメモリの東広島工場はメモリメーカーのMicron Technology、富士通会津工場はON Semiconductorにそれぞれ移った。いわばこれらは全て外国企業の日本工場である。TSMCが日本で工場を持つ場合も似たようなことになることは容易に予想できる。
参考資料
1. More than manufacturing: Investments in chip production must support U.S. priorities Politico (2021/06/24)
2. Intel CEO Pat Gelsinger Seeks Support for EU Foundries sdxcentral (2021/05/01)