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ソニーとTSMCの合弁事業ニュースの信ぴょう性

ソニーグループとTSMCが合弁で熊本県に半導体工場を建設するという構想が浮上した、と5月26日の日刊工業新聞が報じたが、あまり大きな反響に至っていないようだ。経済産業省が仲介役となって関係者の調整を進めるという。2021年の第1四半期の世界半導体大手の業績は好調だったが、台湾では4月の業績の伸び率が落ちている。

ソニーグループとTSMCとの合弁についての話題は、現実味を持って語られていないようだ。日刊工業は昨年もTSMCが九州に工場を作るという話を報じたが、結局、経済産業省の「願望」を記事にしただけだった。今回のソニーグループとのTSMCとの合弁事業について、決算発表で吉田憲一郎会長兼社長はコメントしていない。経産省に遠慮したのであろう。

TSMCへの日本への誘致を同省は積極的に進めているが、交渉中にメディアにリークするという「前近代的な」手法を使ってきたため、TSMCからの信頼を失っている。日本国内では、交渉中あるいはライバルを蹴落とすため「世論」を有利に導く手法として、こっそりリークするという手法が長年使われてきた。特に古い体質の大手企業が好んで使った。しかし、国際的にこの手法を使って成功した例はない。しかも不信感を増幅するだけだ。国際交渉は、あくまでも発表までは絶対に漏らさないことが大原則だからだ。

世界の半導体大手10社の決算が揃った。28日の日本経済新聞によると、2021年の第1四半期決算(一部直近の業績)は大手10社合計で純利益が3割増えた。新型ウイルスによる巣篭り需要で5Gスマートフォンやデータセンター、パソコン、ゲーム向けの半導体が急拡大したためだ。そして車載半導体を中心に需要が増大し供給不足に陥っている現状も反映している。

データセンター需要は今後も高まり、GoogleのCEOであるSundar Pichai氏は、3〜5年以内に量子コンピュータの初期のクラウドサービスを始めると述べている(28日の日経)。いわば量子コンピュータの貸し出しサービスだ。金融機関に提供するということから、株式の高速トレーディングや仮想通貨の暗号解読などに使われると予想できる。カリフォルニア州に新たな研究開発拠点を開き、実用化に向けた課題解決を2029年までに終える考えだとしている。

量子コンピュータは、絶対温度である-273°C近くまで冷却しなければ電子の量子状態を観測できないため、液体ヘリウムによる冷却はマストである。しかも重ね合わせ原理に基づく状態を創り出す時間がまだかなり短く、実用化時期はそう簡単ではない。今の所、超電導SQUIDを使ったスイッチ素子を使う量子コンピュータは一部実用化されているものの、価格はどうしても高価なものにならざるを得ず、ユーザー各社が持つというよりは、データセンターなど量子コンピュータを貸し出すサービスに向いている。

台湾の半導体を含むIT19社の業績の伸びが落ちている、と26日の日経産業新聞が報じた。4月における上位19社の売上額は前年同月比18%増の1兆1413億台湾元(4兆4500億円)になった。昨年12月は同25%増、今年の1月は同32%増、2月は46%増、3月も22%増となり、全て20%以上の成長を続けてきた。記事では半導体不足のせいと見ているが、同日の日経では、台湾企業の苦労を伝えている。

台湾では56年ぶりの干ばつによる水不足が一向に解消されておらず、さらに悪化している。ハイテク地区の新竹では、15%の取水制限を17%に強化するが、ハイテクパーク以外の新竹市内では1週間に2日間断水するという。TSMCの工場がある台中市はもっとひどく、最大のダムの貯水率は1%だとしている。さらに変異ウイルスによる感染拡大で実質的にロックダウン状態になっているという。テレワークでの家庭内電力需要と酷暑が重なり、電力不足も不安視されている。5月の13日と17日には大規模停電に襲われた。加えて、人手不足も出てきそうだ。台湾にTSMCが9000人を採用することに加え、Applied MaterialsとASMLも数百人規模の新規採用を予定しており、半導体エンジニアや技能者の取り合いも始まりそうだ。すでに中国には3000人の台湾半導体技術者がいると言われている。

(2021/05/31)
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