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車載半導体不足に各国政府までが台湾に増産要請

このところ、車載用半導体の供給不足のニュースが続いている。2週間前にも採り上げたが(参考資料1)、今回各国政府までが台湾政府に半導体増産を要請していると日本経済新聞が報じた。自動車用部品は数万点にも及び、どれが欠けても自動車製品を作ることができない。またArmのNvidia買収で、独禁法を管轄する当局が中国だけではなく米欧英も許可を出さない可能性が高い。

1月25日の日経によると、「台湾当局の関係者は24日、『自動車用の半導体が世界で不足しており、昨年末から各国の外交ルートを通じて(台湾からの半導体供給を増やすように)要請を受けている』と語った。自動車の生産が盛んなドイツ、米国、日本などから協力要請を受けている」と報じた。

自動車用半導体は、Infineon TechnologiesがCypress Semiconductorを組み入れたことで売り上げトップになり、市場シェアは13.4%だとしている。2位NXPの11.3%、3位ルネサスの8.7%、4位TIの8.1%、5位STMicroelectronicsの7.6%となっている(参考資料2)。ここでは欧州勢が3社もいて、欧州からTSMCへのプレッシャーが大きいことは容易に想像がつく。台湾のTSMCの設立の際、NXPの前身であるオランダのPhilipsが出資していることもあり、欧州のTSMCに対する声は大きい。

もちろん、米国のTexas Instrumentsもこのところ自動車半導体に成長を期待してシフトしてきており、TIだけではなく、ON Semiconductorなども自動車向け製品に強い。日本ではルネサスに期待がかかっている。

ただ、どのICが不足しているのか、まだはっきりしていない。自動車用半導体と一口に言っても大きく分けて、ダッシュボードやカーナビ、ADASなどの情報系と、ブレーキやサスペンションをはじめとする「走る、停まる、曲がる」という基本機能の実現に欠かせない制御系、がある。情報系は16nmや7nmなどの微細化を必要なSoC(システムLSI)やハイエンドなマイコンなどを使い、制御系は簡単なマイコンやパワー半導体、それを駆動するドライバなど、65nm以上のあまり微細ではないプロセスを使う。情報系と制御系をつなぐネットワーク系(CANやLIN、Flex-Ray、車載Ethernetなど)はその中間となる。

これからのクルマには、自動運転に向けて情報系が拡大するようになり、これまでの自動車用半導体メーカーだけではなく、情報系半導体を扱ってきたIntelやQualcomm、Nvidia、Western Digitalなども積極的に参入している。

日米欧の政府は台湾当局に増産を協力しているとのことであるが、制御系であればTSMCやUMCだけではなく、Tower SemiconductorやGlobalFoundries、Vanguardなども製造できる。台湾系にシフトが激しければ、却って市場が歪んでしまう。台湾以外のファウンドリの活用が望まれる。残念ながら日本では、設計知識を備えた営業担当のいるファウンドリがほとんどいないため好機を逸することになるが、唯一Towerだけが日本語でエンジニアまで通じるファウンドリである。

現状では、どの半導体が欠けても最新のクルマを生産できないため、ユーザー(ティア1サプライヤーや流通系の代理店など)は二重、三重に発注している。本来なら例えば1000個要するところを1200個〜1500個を要求しているため、予想以上に市場はひっ迫している。半導体の需給関係ではダブル発注は当たり前であり、2017年、18年のメモリバブルの時でも同様のことが起きていた。この時もメモリだけの品不足ではなく、他の製品にまでその影響が及んでいた。

自動車用半導体は、2020年3〜4月の自動車生産休止に追い込まれた初期の新型コロナ感染から需要が徐々に回復し、秋から本格的な回復に向かう予定だった。12月にはこの回復を飛び越え、急成長に需要が起きたために、供給が間に合わず今回の品薄状態になった。これまでのクルマ用生産は、IT系半導体とは違い、急速な立ち上がりを経験していない。クルマが急激に売れることはなかったからだ。今回は少しでも半導体や電子部品を確保しておこうというユーザー側の思惑が「急成長」を招いた。

加えて、米中の貿易制裁強化も加わったと、20日の日経は報じている。確かに9月15日以降、米国製半導体製造装置を使って製造された半導体製品を事実上売ってはならない、という米国政府の意向を汲んでその前まで華為向けの半導体は空前の景気でにぎわった。華為は半導体を制限する前に少しでも多くのチップを確保しておきたかったからだ。さらに華為だけではなくSMICもエンティティリストに加わったため、SMICへの製造依頼を台湾勢に切り替えるようになった。台湾のファウンドリは繁忙を極めた。TSMCもUMCも共に2020年は前年比で二けた成長を示してきた。しかし、元々、クルマ用半導体に強いInfineonやNXPは急激な供給要請に対応できなかった。

もう一つのニュースとして、NvidiaによるArmの買収が怪しくなってきた、という記事がある。25日の日経は、ArmのNvidiaへの売却実現に独禁法の壁が高くなっている、という報道だ。中国の独禁当局は透明ではないが、今回の取引では、米国や欧州でも独禁法に引っかかりかねないという理由だ。今回の記事の元は、英国の有力紙The Telegraphのウエブ版Telecoms.comの2020年12月22日の記事である(参考資料3)。これによると、米国の独禁法当局であるFTC(連邦取引委員会)がNvidiaによるArm買収を詳細に調べるため、Nvidiaに対して競争調査に関する詳細な資料を求める「セカンドリクエスト(Second Request)」を送った。

これは、Nvidiaの競合企業が当局に、ArmがNvidiaに買収されたら、Armの中立性が失われてしまうと訴えたことに対して、FTCが調査するために行うもの。ArmがNvidiaに買収されると、これまでのビジネスを変えなければならず、Nvidiaに対して有利で不公平になりかねない。またこの結果、Arm製品の料金を値上げされる恐れもあると訴えた。これまでのところ、EUも英国も米国も、中国もまだ認可しておらず、この行方を見守っていくことになろう。

参考資料
1. 車載半導体が不足している背景は何か (2021/01/12)
2. Third Quarter FY 2020 Quarterly Update, Infineon
3. Nvidia's $40bn Arm takeover faces US competition investigation (2020/12/22)

(2021/01/25)

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