5Gの標準化に欠かせない3GPP会議への参加者が少ないニッポン
5Gへの誤解がまだ根強いようだ。「日本は5Gで出遅れたから6Gへ」という考えは5Gの理解不足に起因している。5Gのスペックはまだ目標値にはほど遠い。遅れているという議論は無意味だ。むしろ、インドへ5Gや光海底ケーブル技術を日本が売り込むという記事を11月27日の日本経済新聞が掲載した。
5Gは2020年から2030年にかけて進化し、6Gは5Gの目標をクリアできてから移行する。6Gは5Gよりも10倍高速・大容量のスペックにしようという目標を一部で掲げているが、まだ絵に描いた餅にすぎない。むしろ日本の技術的な最大の弱点は、5Gの心臓となる無線チップセット(RFチップとベースバンドチップ)を持っていない点だ。半導体なしで5G技術でのリードはできない。結局、Qualcommなどのチップに頼ることになる。チップなしでは5Gどころか6Gも無理なのである。
現実は、Qualcommの技術を元に5G基地局やスマートフォンの技術が進んでいる。同社は、5Gの第2世代となるミリ波技術のアンテナモジュールから、RF、ベースバンドに至るすべてをリードしており、やはり一目を置かざるを得ない。MediaTekやHiSiliconのチップ開発もQualcommチップよりも遅れてリリースされている。また、NokiaやEricssonなどの通信機器メーカーは、Qualcommの影響が少ない、コア基地局向けに独自のチップを開発しており、やはり5Gの心臓部は半導体チップであると言わざるを得ない。
日本はソニーを除き、5G用半導体を持っていないため、NECや富士通などの通信機器メーカーは外部からチップを購入するかFPGAでチップを設計するしか道はない。ソニーはイスラエルの4G/5Gベースバンド半導体会社Altair(参考資料1)を買収して手に入れている。日本のチップを持たない通信機器メーカーはインドへ5Gの基地局技術を売り込むことはできるだろうが、差別化要因は技術ではなくコストダウンやサービスになる。
11月30日には、日本が6Gの標準化でリードしようという趣旨のタイトルの記事を日経が掲載したが、通信で標準化することは残念ながらできない。各国で認可される周波数が異なるからだ。このため、欧州の標準化団体3GPPが通信機器メーカー、通信サービス業者、半導体メーカーなどが集まって標準仕様を決めている。通信の標準化は1社がデファクトスタンダードを取るのではなく、みんなで相談して決める時代なのである。だから日本が6Gで標準化のイニシアティブをとるということは全く意味がない。
ただし、この日経の記事の中では、3GPPに参加する日本企業の少なさを指摘しており、タイトルとは違い、的を射た内容の記事となっている。標準化作業のために出張することを理解できないマネージャーや経営者がいまだにいることも日本企業が強くなれない点の一つだ。40歳代以下の若手の参加者は中韓が各60%、45%なのに対し、日本は5 %しかいないという現状は中間管理職の理解不足によるものであろう。コロナ流行以前の3GPP会議への参加者は、SamsungやEricsson、華為がそれぞれ130〜140名なのに対して日本企業が最大でも50人どまりだったという。標準化会議での情報が遅れれば、市場への新製品投入は1〜2年遅れる。これでは安売り競争の道を行くしかなくなる。
今やコロナ禍で、オンライン会議になっているが、休憩中に詰めの作業ができなくなるという不満が残るようだ。しかも時差があるため日本では午前3時、4時になることが多く、不利な面が多い。日本が5Gでの遅れを取り戻すためにはやはり3GPPでの標準化会議の内容と非公式な会議を、公式会議とは別にZoomなどで持つなどの対策が必要になろう。
インドに5Gや光ファイバ技術を売り込む計画は12月にオンライン会談を通し、両国が覚書を交わす予定となっていると27日の日経は伝えた。インドは中国と国境紛争を6月にしており、対中関係が悪くなっている。この時期に日本と通信で連携するのはチャンスとなる。
5GはIoTの通信やデータ解析のAIとも絡めてスマート化、デジタル化には欠かせない技術の一つだ。豊田通商と北海道大学の野口伸教授のグループは、トヨタのプリウスの部品を活用した農業用自動運転ロボット(クルマやドローン)を共同開発、ブドウ農場の下草刈りや農薬散布を自動化すると11月26日の日経が報じた。無人トラクターの実証実験も始めたという。
また、JEITAや日立、ソニーなどの電機メーカー170企業や団体がローカル5Gサービスを推進する新組織「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」を発足させた。ローカル5Gを用いたサービスモデルの構築を目指すとしている。
参考資料
1. Altair 5G