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BoschがIndustry 4.0を実現するためローカル5Gを半導体工場に導入

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ニュースの少ない夏にビッグニュースが飛び込んできた。自動車産業ティア1サプライヤのドイツRobert Boschが、南部のロイトリンゲン市に設置している半導体工場(図1)にローカル5Gをテスト導入すると発表した。5GはIndustry 4.0を実現する上で欠かせない技術だとの認識で、Boschの半導体工場がローカル5Gで先頭に立つと意気込んでいる。

図1 ロイトリンゲンにあるBoschのウェーハファブ 出典:Robert Bosch

図1 ロイトリンゲンにあるBoschのウェーハファブ 出典:Robert Bosch


Boschは、Industry 4.0のパイオニアとして、工場やロジスティックスにおいて5Gはデジタル化とコネクティビティ(常時接続)に欠かせないと認識している(参考資料1)。このため、試験的にロイトリンゲンのウェーハプロセス工場に5Gネットワークを設置し、製造装置や設備の互換性とチャンネル(後述)の測定を行う。この結果を元に、ドレスデンにある量産工場へ移管し5Gを本格的に導入、Industry 4.0を進めていく。

B2Bの製造技術分野ではデジタルトランスフォーメーション化が進んでいる。手作業をできるだけ減らすため、ロボットなどの技術的な補助システムが多数使われている。センサが膨大なデータを送り、作業者・エンジニアと機械、システムとの間の結びつきがますます強まる。このIndustry 4.0推進のカギとなるのが5Gである。「Industry 4.0では高速、高信頼、高セキュアなデータ転送が基本となる。ここに5Gでつなげると生産性が大きく向上する」と、BoschのCDO (Chief Digital/Data Officer) / CTO (Chief Technology Officer) であるMichael Bolle氏は述べている。

同社はEricssonとパートナーシップを組み、5Gが半導体製造にどの程度インパクトを及ぼすものかを求めるために互換性テストを始めたところだ。「半導体製造は極めて複雑で、さまざまなパラメータに敏感だ。半導体ウェーハはさまざまな製品で1000種類以上ものテストを行っている。工場環境では、電磁波ノイズテストが干渉源の一つになるため、生産工程で5Gへのインパクトをテストしている」と、Boschの研究者であり、5G-ACIA(5G Alliance for Connected Industries and Automation)の会長でもあるAndreas Mueller氏は言う。

チャンネル測定もまた重要なテスト項目である。これは、最適なネットワークカバレージを確認するために必要な調査項目で、送信アンテナを工場内のどこに、どれだけ設置すべきかを調べる。Boschは秋までにロイトリンゲン工場の5Gテストネットワークを設置して、これらの調査結果を活かす予定だ。テストすることで、エンジニアは、5Gを使ってマシンとシステムがどのように動作し、Wi-Fiや有線方式と比べ5G接続がどれほど改善され効率が上がるのかを調べる。現場では、ローカルクラウドで動く自動運送システムや製造装置へのリモートアクセス、装置システム間での通信などを検証する。

ロイトリンゲンでの成果は、今後の5Gネットワーク計画に生かすことができる。例えば、ドレスデンでの新しいウェーハプロセス工場(図2)に5Gネットワークを適用する。Boschはこの新ウェーハプロセス工場に10億ユーロ(約1250億円)を投資している。2021年1月末までに半導体の生産を開始する予定である。半導体こそIndustry 4.0をさまざまなレベルで導入する技術であり、スマートセンサなしでIndustry 4.0はできない。また、ウェーハプロセス製造自体が製造技術をつなぐリーディング技術であると見ている。もちろん、完全自動化やAI(人工知能)の活用はリアルタイムで製造プロセスを最適化する手段でもある。


図2 ドイツのドレスデンにあるBoschのウェーハプロセス工場 出典:Robert Bosch

図2 ドイツのドレスデンにあるBoschのウェーハプロセス工場 出典:Robert Bosch


同社はすでにEU(欧州連合)プロジェクト5G-SMART(参考資料2)に中心メンバーの1社として参加しており、今回のテストはその一環でもある。2019年6月に始まった3ヵ年計画の5G-SMARTでは、実際の製造工場環境で、5G通信規格をテストし、デモを行い、評価する。5G-SMARTプロジェクトでは3ヵ所でテストすることになっており、このロイトリンゲンの半導体工場の他に、スウェーデンのキスカ市にある Ericssonの工場と、ドイツのアーヘン市にあるFraunhofer IPTの研究所でもテストを行う。

5G-SMARTでは、EMC(Electromagnetic Compatibility)試験や、電波のカバレージを調べるチャンネル測定、5Gの公衆網とローカル網との共存の調査などを行い、リアルタイムでの製造に活かす。製造で5Gネットワークを使う場合の時刻同期技術についても検討する。加えて、このプロジェクトでは通信オペレータが新しいビジネスモデルについても検討する。

参加メンバーには、Bosch、Ericssonの他、フランスの通信オペレータOrangeや、スイスの通信モジュールメーカーのU-Blox、スウェーデンのパワーエレクトロニクスのABB、Lunds大学、Frauhofer研究所など16団体。将来の製造業向けのローカル5Gの標準規格についても検討していく。

参考資料
1. Bosch launches 5G tests at Reutlingen wafer fab (2020/08/06)
2. 5G PPP - The 5G Infrastructure Public Private Partnership

(2020/08/11)

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