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AIビジネスの模索が続くプリファード

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国内でAI(人工知能)のユニコーンであるプリファードネットワークスがAIビジネスを模索している。7月27日の日本経済新聞は、同社社長のインタビュー記事を載せた。一方で、AIチップの開発は進んでおり、同日の日経は、VLSI SymposiumでのAIチップの動きを伝えている。

プリファードの西川徹代表兼最高経営責任者(CEO)とのインタビュー記事は2部からなるが、奇妙な見出しが載っている。一つは、新規事業に参入、という積極的な見出しだが、もう一つは、AIブームは終わる、という否定的な見出しとなっている。プリファードは日本におけるAIのリーダー企業と見られてきた。トヨタ自動車やファナック、ENEOS、花王などの大企業と研究開発を進めており、日経によると、19年9月末時点の推定企業価値が3515億円と突出している。

しかし、AIという技術を売りにするビジネスはまだ安定していない。一般に、AIというテクノロジーは手段であって目的ではないため、ユーザーからの要求によって学習モデルやニューラルネットワークの構造が異なる。まさに少量多品種の世界である。このため用途ごとに顧客と密着しながら、顧客の要望に沿って一緒に開発する、というコンサルティングを伴うビジネスになっている。このためAIビジネスとしての大きな汎用的なアプリケーションはまだない。自動運転のための物体認識や、医療関係ではレントゲン写真から疾患を識別する機能、創薬に必要な分子構造の特長抽出など、用途ごとに全く違うため、顧客密着型の開発スタイルにならざるを得ない。

ディープラーニングではプリファードは、「Chainer」というフレームワークを開発、AIのソフトウエア開発を楽にするプラットフォームだった。早い時期からNvidiaのGPUを使い学習モデルを作成する場合に使われていた。AIのフレームワークとは、ディープラーニングに必要な機能やモデルを作成するのに使われるさまざまなソフトウエアを組み合わせたものである。Googleが無償で提供するTensorFlowや、Caffe、最近ではPyTorchというフレームワークに押され気味で、プリファードは昨年暮れにChainerの新規開発を止めた。

その一方で、例えば工場のラインで使う製品の外観検査装置に組み込む汎用技術を製品化したり、学習可能な高精度のAIチップを開発したり、さまざまな模索を続けてきた。西川CEOは、「これまでサービスを出せていない。研究開発ばかりで自分たちで事業をつくってうまくいった経験がないと、企業の成長が止まる」とインタビューの中で述べているように危機感を持っている。AIをビジネスとしてやっていくことは容易ではない。いまだに模索が続いている。

これまで開発してきたAIチップの「MN-Core」(参考資料1)を搭載したAIコンピュータ「MN-3」を、学習モデルを開発するために使うことを進めている。さらに6月にはゲームソフトのグリーと提携、ゲームなどエンターテインメント事業に本格進出する。プログラミング教育にも参入し、学習塾と提携して自社教材の授業を8月に始める。

一方、AIベンチャーのエクサウィザーズは、医療という明確な分野でのAI開発を進めている。24日の日刊工業新聞は、同社と山口大学AIシステム医学・医療研究教育センターと包括的共創事業を始めた、と報じた。エクサウィザーズは創薬開発をはじめとする医療・製薬産業に向けたAI活用事業を進めている。山口大学とは、「両者で三つの開発プロジェクトを進める。患者一人ひとりが持つパーソナルヘルスレコードとAI技術を組み合わせた患者の行動変容ツールや、受精卵の良好胚の選別AI、虐待が疑われる児童の医学的判別支援システムを構築する」、とニーズの吸い上げからAIの実装までを共同で行う。

AIは学習モデルの開発だけをやっていてもやはり、ハードの高速性にはかなわない。ハードが貧弱だと、ひと月以上も時間のかかる学習モデルを作っても意味がないため、AIエンジニアは高精度な学習モデル作りを諦めることもあったと聞く。従来ひと月以上かかる学習モデルでさえ、数分で処理できるAIチップならソフト開発の現場が全く違ってくる。ここにAIチップの活躍場所がある。もちろん、高速トレーディングのような株式取引でも高速演算が求められAIチップの需要はある。VLSI Sympoレポートでは、AIチップを3次元構造に実装する技術を伝えている。

参考資料
1. プリファードネットワークス、AI学習チップを顔見世 (2018/12/18)
(2020/07/27)

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