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キオクシアが積極策に出る、台湾からSSD事業買収完了、Splinter氏を招聘

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キオクシアが積極的に進み始めた。6月30日に台湾Lite-OnのSSD事業の買収を終え、同時に元Applied Materialsの社長・CEO・会長を長年務めたMike Splinter氏を取締役に迎えた。世界半導体工場はさほど稼働率が落ちず、この第3四半期も88.8%の高い稼働率になる見通しを日本経済新聞が報じた。新型コロナは半導体にとって逆風ばかりではない。

台湾のLite-Onはマザーボードやオプトエレクトロニクス、電子部品、モジュールなどを手掛けてきたエレクトロニクスメーカーだが、SSD部門も持っていた。今回キオクシアが買収するのはSSD部門のみ。キオクシアにとってNANDフラッシュの生産は得意だが、SSDはさほどでもなかった。SSD市場はSamsungが断トツで、次にWestern Digital(WD)、さらにIntelが占め、キオクシアはその次のようだ。NANDフラッシュをWDと共に生産していながら、SSDではWDに大きく差を付けられていた。

Lite-OnのSSD部門はキオクシアよりも下に位置するが、両者を合わせるとWDに接近する。NANDフラッシュに大きく依存している現状では、好況期にチップを二重、三重で発注するユーザーが不況期になれば在庫が溜まり、発注を大きく減らす。自分でSSDを持っていれば、SSDビジネスで稼ぐことは可能になる。もちろん販路の確保は重要だ。Lite-OnのSSD事業買収は、キオクシアの経営を安定にする。キオクシアは半導体メモリ会社から、ストレージ会社に変身することになる。

ただ、キオクシアの取締役会はファンド偏重のいびつな構造となっていた。早坂伸夫代表取締役を含めた取締役は従来7名で、この内、半導体技術を熟知しているのが早坂氏と副社長のStacy Smith氏しかいなかった。鈴木洋氏は株主の一人HOYAのCEOだが、残り4名は全てファンドのベインキャピタルの人たちだ。財務のプロであるが、半導体は素人。NANDフラッシュというハイテク企業の成長戦略を作るためにはテクノロジーを熟知していなければならない。

今回、取締役に加わったMike Splinter氏は長年AMATをけん引してきた経営者であり、その前はIntelのシニアVPで製造本部長を務めていた半導体製造業界のベテランである。2013年にはIEEEのRobert Noyce賞(参考資料1)も受賞している。さらに現在はVC(ベンチャーキャピタル)、いわゆるエンジェルであり、ハイテクベンチャーの株式市場NASDAQ会長も務めている。つまり、財務もテクノロジーもわかる人だ。ある意味、取締役として最も適任者である。これからキオクシアの運営に加わる期待は大きい。

さらに、東芝は2017年のメモリバブルに評価額の高かったキオクシアを外部に売り払ったものの、18年には一部買戻して40%の株主になった。しかし持分法の適用で財務的には東芝の決算に大きな影響を及ぼす。2019年にはメモリバブルの反動が来て、キオクシアは赤字に転落、東芝も足を引っ張られた。半導体メモリ産業の浮き沈みを知らなかった経営者は、キオクシアの株を手放すことを決めた。

これからは東芝経営陣に振り回されることがなくなり、キオクシアは自身の責任で自身の好きな道を選択できるようになる。特に、ITストレージビジネス、半導体ビジネスでは変化が極めて激しいため、自分で早く決める経営が望ましい。世界の半導体企業はSamsungを除き半導体専業メーカーが圧倒的に多い。今後、キオクシアは競争に強くなれる可能性を秘めている。

7月5日の日経は、2020年第3四半期(7〜9月期)における世界の半導体工場の平均稼働率が88.8%になる見通しだと報じた。前年同期比を1.8%ポイント上回るという。新型コロナの影響で消費者向け商品が売れない状況でも、ビデオ会議などクラウドサービスの需要拡大でデータセンター投資が活発なことが、稼働率の高さを表している。日本製半導体製造装置の販売額が2020年度に前年度比7%増の2兆2181億円になるとの予想をSEAJ(日本半導体製造装置協会)は発表した。半導体産業は新型コロナでの需要が生まれたことを裏付けている。


参考資料
1. 香山晋氏が2020 IEEE Robert Noyce賞の受賞者に決定 (2019/12/18)

(2020/07/06)

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