セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

TSMCの米国先端工場設立の背景に華為つぶし

|

台湾TSMCが米国に5nm以降の先端プロセスを見据えた最新工場を設立すると5月15日に発表した。同日、米国商務省の産業安全保障局BIS(Bureau of Industry and Security)は米国製半導体製造装置で作られた半導体チップは生産国を問わず、華為及びその子会社に出荷してはならない、と発表した。この二つのニュースは米国による華為つぶしが裏側にある。

TSMCは、最先端プロセスである5nmの工場を米国アリゾナ州に建設する予定であることを発表した(参考資料1)。生産能力は月産2万枚で、1600名以上のエンジニアを直接採用する。2021年に工場建設に着工し、2024年から稼働を始める。稼働も含め総投資額は2021年から2029年までに120億ドル(1兆2600億円:1ドル=105円)に及ぶ。米国における顧客やパートナーのサポートだけではなく、世界中のプロセス技術者をかき集める。米国内で半導体製品を製造することで、競争力のあるエコシステムを米国内に作ることができる。TSMCは、すでにワシントン州のカマスに工場を稼働させている上に、テキサス州オースチンとカリフォルニア州サンノゼにデザインセンターを持っている。今回発表のアリゾナ工場は、米国における2番目の工場となる。

このニュースの発表とほぼ同時に、米商務省のBIS(産業安全保障局:Bureau of Industry and Security)は、中国の通信機器メーカー、華為科技を封じ込める計画を発表した(参考資料2)。これは、米国の技術とソフトウエアを使った製品を華為が製造しないように制限を一段と強めたもの。これまでも商務省は華為をエンティティリスト(米製品輸出禁止対象企業)に加えたものの、華為は抜け道を使って未だに米国の技術とソフトウエアを使っているという認識だ。

半導体製造にとって最も身近な例として、華為の子会社のファブレス半導体であるHiSiliconは、7nmプロセスに使ったAPU(アプリケーションプロセッサ)を設計し、台湾のTSMCに製造を委託している。そのAPUは5Gのスマートフォンや最新のMate30などに使われ、AppleのiPhoneの7nmのAPUであるA12およびA13に次ぐ。TSMCにとっても7nmを使っている大手の顧客はAppleとHiSiliconの2社である。

米国にとって、中国のファブレスが7nmという最先端プロセスで設計していることが国家安全保障上リスキーに映る。これまではココムに代わるワッセナール協定があったが、これはもはや機能していない。ワッセナール協定では、半導体製造装置は最低でも1世代遅れた装置しか中国には輸出できなかった。ところが、半導体産業がファブレスとファウンドリに分業したため、HiSiliconのようにファブレスだと最先端のプロセスが使えるのである。これが米国の言う「抜け道」だった。

そこで今回は、米国の技術を使った製造装置を導入したファウンドリがHiSiliconの製品を輸出できないようにすることを決めたのである。このため、華為やHiSiliconが作る半導体設計のような品目は、CCL(商務省規制品リスト)のソフトウエアと技術による製品であると認定した。さらに、華為やHiSiliconが作るチップセットのような品目は、CCLの半導体製造装置による製品であるとした。しかもその装置が米国外にあるものも含む。そのような外国製品は米国政府の許可が要る、としたのだ。それも5月15日から有効とした。

この声明は、TSMCにとってもきつい縛りとなる。これ以上先端プロセスを台湾にとどめておくことはできないと観念せざるを得なかった。そこで、TSMCは、5nmプロセス工場を米国に作ることを発表したのである。

米国から見ると、半導体ファウンドリは国内からなくなっていた。IntelはAlteraを買収した時からファウンドリビジネスへの興味を失った。ファウンドリの大手顧客はAlteraしかいなかったからだ。またGlobalFoundries(GF)は、ニューヨーク州アルバニーでの先端プロセス開発を断念した後は、ひたすら工場をたたむ一方だった。IBMのイーストフィッシュキルから譲り受けた工場はON Semiconductorに売却し、シンガポールのChartered Semiconductorから買収した工場は台湾のVanguardに売却した。GFの拠点は、今やドイツのドレスデンだけになった。

こんな状況で、日本国内でもTSMCやIntelに来てもらおうというニュースは最近あったが(参考資料3)、まず無理だろう。日本の経済産業省はインセンティブを何も用意していないからだ。今から20年以上前にIntelは、製造が得意な日本にも工場を作ろうと本気で考えた時期があった。しかし、税制優遇策や研究開発支援などのインセンティブが全くなかったため、日本に工場を作るという選択肢は消えた。Intelは日本ではなくアイルランド工場を強化した。インセンティブのない国には誰も来ないことは世界の常識である。

参考資料
1. TSMC Announces Intention to Build and Operate an Advanced Semiconductor Fab in the United States (2020/5/15)
2. Pete Singer, “U.S. Targets Huawei’s Chip Supply” Semiconductor Digest (2020/5/15)
3. 日本が米インテル・台TSMCを誘致、半導体「国内回帰」の驚愕計画 週刊ダイヤモンド (2020/5/11)

(2020/05/18)

月別アーカイブ

セミコンポータルはこんなサービスを提供します