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半導体の産業構造が変わりそうだ:AIチップ、TSMC、中国の動き

半導体産業が新たなフェーズに入った。日本ではAIフレームワークソフトウエアを開発してきたプリファードネットワークスがAIチップへシフトし、新型コロナウィルスをうまく閉じ込めた台湾におけるTSMCの経営手腕が目を引く。TSMCしか使いこなせていないと言われるEUVを生産するASMLの好調さなど、半導体産業の新展開が現れた。

国内AI開発のナンバーワンと評判だったプリファードネットワークスが、自ら開発してきたAIのフレームワーク「Chainer」の開発中止を決定した。日本も含め世界にはAIフレームワークとして、GoogleのTensorFlow、FacebookのPyTorch、カリフォルニア大学バークレイ校が開発したCaffeなどがある。最近はTensorFlowとPyTorchが2大フレームワークとして地位を固めつつある。プリファードのChainerは、Nvidiaの日本法人エヌビデアがかつて使ってみていたりした。しかし、世界的にはほとんど使われてこなかった。

AIフレームワークは、AIのモデルを作成するときなどにコーディングしなくても済むようなライブラリを揃えており、これらを組み合わせてプログラムを作ることができる。今は2大フレームワークがデファクトスタンダードになったため、プリファードは今後PyTorchをサポートすることを表明した。AIの最大の用途はデータ解析需要であり、このためには高速での解析が求められている。この切り札となるのがAIチップだ。ニューラルネットワークモデルに基づき、MAC(積和演算回路)とメモリ(RAM)とのセットを超並列で処理する基本構成のプログラム可能なAIチップを作る。

AIチップはGoogleが最初にチップを設計したTPU(Tensor Processing Unit)はMAC演算の精度を従来の16ビットから8ビットに落とした場合でも、性能は99%とほとんど変わらず、消費電力が1/10に減少した。この事実が世界中に伝わったことでAIチップ開発が加速した。プリファードは今後AIチップ開発に精力を注ぐという。LSI設計言語HDLやVerilogを勉強してコーディング可能になれば、プリファードはLSI設計を活かしたファブレス半導体メーカーになることができる。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)が自社データセンターのサーバーにAIチップを組み込むのに対して、プリファードはそれを外販できる立場ではある。

ファブレス半導体を受け付けて製造サービスを提供するファウンドリ業者も成長しているが、中でも売上額トップのTSMCは、2019年全体での売上額が前年比1.3%増の343.3億ドル、営業利益率は34.8%という好調さを示した(参考資料1)。同社が先頭を走る7nmの売上額は売上額全体の27%にも及んでいる。中でも第4四半期では、売上額103.9億ドルと前年同期比10.6%増、営業利益率39.2%と極めて好調といえる。しかも7nmプロセスの売上額は35%にも及ぶ。

TSMCの7nmプロセスが大成功を収めた最大の理由は、リソグラフィメーカーASMLのEUV技術を使いこなせるようになったためのようだ。ASMLは、ライバルだったニコンとキヤノンが早々と諦めてくれたおかげでEUV技術の唯一のリソメーカーとなったが、ASMLも好調で、19年12月期決算では連結売上額が118億ユーロとなっており、半導体製造装置メーカーの1兆円企業を2年連続して確保している。

TSMCはまた、米国に新工場の建設を計画していることを明らかにした。米国のトランプ大統領がTSMCに対して米国での生産を拡大するように要求していた。米国にはすでにテキサス州オースチンにTSMCの工場(TSMC North America)はあるが、最先端プロセスの工場を大統領は求めていた。TSMCにとっても米国は重要な顧客が多数いる国だ。3月17日の日本経済新聞は、新しい米国工場では2nmプロセスまでの次世代技術の導入を検討しているという。

新型コロナウィルスを封じ込めた台湾でもTSMCで感染者が1名見つかったと現地メディアが報じた。この社員との濃厚接触者が30名いることを確認し、14日間の自宅隔離としたうえで、毎日隔離対象者の健康状態を確認するという。加えて、同社員の作業エリアと共用エリアの消毒を強化し、オフィスの分散化と社員のマスク着用を義務付けたとしている。

コロナウィルスが発症した中国の武漢では、NANDフラッシュを生産するYMTCの工場が例外的な処置で、市外から技術者を送り込み、チップの製造を続けている、と19日の日経が報じた。中国は武漢市を封鎖したが、YMTCの工場に向けた特別列車の運行は止めていないという。中国は半導体チップ製造の国産化の手を緩めていない。


参考資料
1. TSMC 2019 Fourth Quarter Earing Conference (2020/01/16)

(2020/03/23)
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