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5Gに向けた材料開発が盛んに、AI人材育成にコンペの利用も

次世代ワイヤレス通信技術5Gに向けた材料開発が進んでいる。信越化学工業や四国化成工業がプリント基板などの材料開発に力を注ぎ、NECは142/157GHzのミリ波、屋外150mで10Gbpsを実証した。「絵に描いた餅」の6Gも絵だけ描けた。一方、AI人材育成の動きも顕著になってきた。

5Gの商用化が始まったといえ、その目標値であるダウンリンク20Gbps/アップリンク10Gbpsにはまだほど遠い1Gbps以下のレベルにある。このため5G向けの材料開発は決して遅れている訳ではない。通信する搬送波(キャリヤ)周波数として、現在3.5GHz、4.5GHz、28GHzが国内では割り当てられ、海外でも似たような周波数を利用している。データレートに直接関係するのはその周波数帯域である。それぞれ3.5GHz/4.5GHz帯が100MHz幅、28GHz帯が400MHz幅となっており、400MHz幅内で400Mbpsを得ることが限界といえる。周波数帯域幅をいくつか束ねてデータレートを上げる方法キャリヤアグリゲーション法はあるものの、多数の回線が利用するには難しい。

信越化学が5G向けのプリント回路基板材料として、製品サンプルを出荷できるようになったものは石英クロス入りのプリント基板である。3月9日の日経産業新聞が報じた。石英クロスは誘電率が低いことから誘電損失が少なく5Gに対応できる。信越化学はさらに、GaN on Siウェーハもサンプル出荷した。これは、GaNの表面近くを電子が走るHEMT構造を利用して送信回路のパワートランジスタとして使われることが多い。ミリ波でなくてもシリコンやSiGeのパワートランジスタと比べ、より少ない消費電力で高出力を出せる、という特長がある。スマホでは、電池をさほど消耗させなくてもより遠くまで電波を飛ばせるようになる。

四国化成は、銅とプリント基板の樹脂との界面をザラザラにする処理をしなくても密着性を挙げられる液体材料「グリキャップ」を開発した、と6日の日本経済新聞四国版が報じた。銅配線は、高周波だと表皮効果で表面だけに電気が流れやすくなるため、配線表面と樹脂界面側に電気が流れるようになる。表面はきれいなツルツル状態でも界面がザラザラだと半分電気が流れにくくなる。表面、裏面ともツルツルにすることで、電流がより流れやすくなった。また、この後に配線を微細することも可能だとしている。

5日の日経は、ルネサスエレクトロニクスが5G基地局やデータセンター向け半導体を新たな柱にすると報じているが、今は買収したIDTのクロック製品しかない。ルネサスはこれ以外に5Gで重要なモデムICは開発するだろうか。というのは4Gが始まる前にモデム開発用にNokiaとの合弁で設立したルネサスモバイルを解散した過去のいきさつがあり、すでに人材も残っていないからだ。基地局向けの製品がIDT製品だけなら5Gを成長の柱とするには無理があるだろう。

3日の日刊工業新聞は、5Gの次の6Gについてテラヘルツ波を想定しているが、6Gを議論することは時期尚早で、むしろ今は5G向けの高データレートを想定した材料や技術開発が優先だろう。6Gは5Gの10倍のデータレートという目標を設定しただけにすぎないからだ。5Gのミリ波でさえ、到達距離が短くなり指向性も強まるため、開発に奮闘している状態だ。ちなみにNECは142GHzと157GHzのミリ波周波数を使って双方向の屋外通信実験を行い、150メートルの距離で10Gbpsのデータレートを得たと、6日の日刊工業が報じた。

AI関係では、AI開発を競うコンペティションが国内で注目されている、と9日の日経は報じた。AIコンペは、主催企業などが解決したい課題やデータを用意し、参加者がAI開発の腕を競うというもの。優れた性能のAIアルゴリズムやソフトウエアは主催者に提供され、上位入賞者には賞金が出ることもあるという。主催側、参加側ともAI人材育成の役にたちそうだ。

ガラスをはじめとする材料に強いAGCは、AI人材の育成に力を注いでいる、と6日の日経が伝えた。社内の研究者などに専門カリキュラムを提供、2022年までに50名ほどのデータサイエンティストを育てる。材料開発にインフォマティクスと呼ばれる手法が使われ始めており、AI(機械学習)を使って新材料開発に生かす。

(2020/03/09)
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