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太陽電池大手2社が本命、シリコン薄膜型の量産へ踏み出す

これからの太陽電池の大本命はやはりシリコン、それも薄膜のアモルファスシリコン太陽電池であろう。これまで結晶型太陽電池で国内大手2社が薄膜型太陽電池の量産化について先週それぞれ、発表した。シャープが奈良県葛城市に220億円を投じて増強したラインが稼働した。三洋電機は新日本石油と共同で薄膜型太陽電池の生産工場を設立、2010年から量産する。

薄膜型のアモルファス太陽電池は、結晶型と比べて光から電気への変換効率は劣るものの大面積化が容易で、シリコンの消費量が圧倒的に少ない。変換効率は結晶型の18〜21%に比べ7~8%程度だが、薄膜の厚さは1~2μmしかないため結晶型よりも2ケタ以上薄い。

3元、4元金属を使う塗布型の太陽電池も新聞紙上をにぎわしているが、これまでの化合物半導体の歴史から照らしてみると、3元、4元系化合物を均一に薄く作ることは極めて難しい。原理的には塗布できるため安価には作れるが、それを工業レベルの均一なストイキオメトリで、しかも均一な厚さに加工することはそうたやすくはない。実際、7月末に東京ビッグサイトで開かれたPV Japan 2008の会場で、3元、4元系材料で太陽電池を手掛けているブースの担当者の方々にお伺いしてみると、均一な組成や特性を得ることがいかにも難しいことを話していた。

かつて、アモルファスシリコンの開発初期の時代でも、数mm角の小さな面積では5~6%の効率が得られても、1m程度の広い面積となると、効率はとたんに落ち、1〜2%しかなかった。同じことが3元系、4元系の化合物太陽電池でも起きている。広い面積では効率は落ちてしまう。このためアモルファスの太陽電池はこれまで、面積の小さな時計や電卓にしか使われてこなかった。

もともと太陽電池は、誤解を恐れずに言うと、出来の悪い半導体材料で作る。結晶系の太陽電池は、引き揚げたシリコンのインゴットのフロント(種結晶に近い部分)とテール(引き揚げたインゴットのおしり部分)を使っている。この部分はやや結晶性が悪く集積回路ICには使えないためだ。集積回路には、インゴットのど真ん中の結晶性の良い部分のみを使う。この部分はもちろん高価だ。性能はやや悪いがひたすら安いシリコンが太陽電池用のシリコンなのである。

薄膜も同様で、アモルファスシリコンを熱処理して結晶性を上げれば性能の良いシリコンにはなる。しかし、工程が増えるとか、基板を安いガラスにしたいとか、など安さ第一を追求するため、できるだけ低温で形成する。当然結晶性が悪いため、効率は結晶シリコンよりは落ちる。

太陽電池は原理的には、半導体接合部分に光が当たり、電子と正孔のペアが出来、それぞれプラス、マイナス電極へと別れていく。このとき途中で電子と正孔が再結合してしまえば電流として取り出せない。このためできるだけそれぞれが死ぬことなく無事、プラス、マイナスの電極にたどりつかせることが効率を高めることにつながる。半導体用語でいえば、少数キャリヤのライフタイムをできるだけ長く、結晶性を高めることが効率を高める手法になる。

今回、大手2社が取り組む薄膜太陽電池は、効率もそこそこには上がってきているうえ、何よりも均一性が高い。というのはこれまで薄膜アモルファスシリコン技術はTFT液晶のトランジスタを形成するのに使われてきており、しかも大面積で均一な商品(液晶テレビ)を作り上げてきたという実績があるためだ。ユーザーは安心して太陽電池を使うことができる。アプライドマテリアルズによると大面積で10%弱の効率は目前だとしている。シャープの太陽電池は1m×1.4mの大型ガラス基板で変換効率は9%に達したという。三洋電機もこれまで結晶型を推し進めてきたが、新日石と共同で薄膜型を開発するというのはこれからの大市場をにらんでのことだろうと推察する。

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