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60GHzのミリ波解禁に向け、多彩な無線応用が続出

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総務省が10月31日に60GHz帯のミリ波解禁の意見を求めた途端、Infineon TechnologiesはジェスチャーUIを狙ったレーダー応用を明らかにした。総務省は12月2日までパブリックコメントを受け付けており(参考資料1)、来年春には解禁すると見られている。日本経済新聞は11月19日、ジェスチャーUIを報じた。5Gの商用化に向けた部品の量産化は着々と進んでいる。無線通信技術は極めて活発になってきた。

レーダーを使ったジェスチャー制御は新しいUI(ユーザーインターフェース)を提供する。新たな60GHz帯の利用では、従来1GHzの帯域しかなかったところに、7GHzもの広い帯域が使用可能になる。これはジェスチャー操作にはもってこいの解像度が高くなるというメリットがある。帯域が広くなると、レーダーによる映像の解像度が上がるため、狭帯域では物体があるかないかしかわからなかったが、広く取れることで鮮明な像を描くことができるようになる。

ジェスチャーUIは、GoogleがSoliと呼ぶ技術でレーダーベースのジェスチャーや動き認識の開発を進めており、Googleの新スマートフォンPixel 4に搭載されている。ジェスチャー操作は、料理を作っている最中の手が汚れていても操作できるというメリットがある。帯域が広いため手と指の動きも認識できる。これからのUIへの期待は大きい。さらに、人間が呼吸し、心臓が鼓動する微小な動きも検出できるようになり、スマホのUIだけではなく、家内での人間の安否確認や、テレビ画面に向かってリモコンなしでジェスチャーによる操作も可能になる(参考資料2)。車内に赤ちゃんがいることも簡単に知らせられる。光のない所での顔認証も可能だ。

もともと60GHzの応用は、10年ほど前から通信で試みられてきた(参考資料3)。しかし、半導体技術が未熟で対応できず、WirelessHDやWiGigのようなミリ波通信は衰退していった。しかし、クルマ用の77GHzレーダー技術をInfineonは先駆けており、GaAsからもっと安価なSiGeへと低コスト技術を開発し、ICパッケージもモールド化し量産対応とコストダウンを図った結果、高級車から大衆車にまでレーダーを普及させることができた。今では24/77/79GHzのクルマ用に加え60GHzレーダーも揃えており、今回の日本での解禁にも即座に対応してきた。

無線技術はこれからも重要で、目の前にある技術は5Gだ。22日の日経は、「ファーウェイ、日本から部品1.1兆円、会長『来年さらに拡大』、5割増、米国上回る」という記事を掲載、国内の部品メーカーへの期待を報じた。CMOSイメージセンサのソニーや、水晶やSAWなど電子部品の京セラ、セラミックコンデンサに強い村田製作所など主要な取引先には日本の大手が多い。今後調達を増やす部品として、ソニーのCMOSイメージセンサを挙げたという。

また5Gは始まったばかりだが、韓国や米国、中国の製品も基地局も高速データレートの10Gbpsもレイテンシの1ms以下という目標スペックを満足しておらず、本格的な5G通信はこれから始まると言っても差し支えない。また、ローカル5Gという提案を総務省がしているが、工場や物流センター、倉庫、港湾など広い場所内での5Gという応用もこれから始まる。欧州や米国ではすでにLTEを使った工場や物流拠点のローカルLTEの事例はあるが、国内ではまだほとんどない。パナソニックがプライベートLTEというサービスを展開しているだけに留まる。いきなり現場でのローカル5Gを進めようというのが日本だ。5G基地局は総務省が握っているため、倉庫や工場のユーザー企業が認可を取るか、あるいは第3者の事業者が取るか、という選択もある。従来の通信大手オペレータであるNTTドコモやKDDIなども参入できるが、21日の日刊工業新聞は大阪のオプテージ社や京セラの事例を紹介している。

5Gに向けた半導体や関連部品も動き出している。住友化学は送信機のパワーアンプに使うGaNウェーハの生産能力を2017年比で3倍に引き上げた。すでにLTEで同社は実績があるものの、5Gでは基地局が増えると見込んでいる。旭化成は高周波基板に使う低誘電ガラスクロスを増産、基板用の樹脂も供給するとしている。出光興産は、誘電損失が小さいというシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂を増産し22年8月に商業運転するという。三菱ケミカルは積層セラミックコンデンサ向けのポリエステル膜を増産する。

参考資料
1. 電波法施行規則等の一部を改正する省令案等に係る意見募集−60GHz 帯の周波数の電波を使用する無線設備の高度化に向けた制度整備− (2019/10/31)
2. クルマのトレンドはACESで:カーエレ展2019(前編) (2019/01/22)
3. 60GHzの1チップCMOSトランシーバを2012年に投入、民生市場に生かす (2009/08/04)

(2019/11/25)

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