EUVレジストの韓国への輸出を経産省が許可した背景
日韓貿易摩擦がくすぶる中、経済産業省は、半導体材料の一部の韓国向け輸出を許可した、と8月9日の日本経済新聞が報じた。この背景は後述するようにサプライチェーンのグローバル化が大きく、半導体を舞台にした貿易摩擦は無意味になりつつある。別の話題だが、東芝メモリがストレージクラスメモリを開発したと発表した。
日経によれば、「許可したのは半導体の回路形成などに使うレジスト(感光材)で、信越化学工業の製品とみられる」としている。EUVレジストが半導体材料の輸出制限を受けた品目の一つだが、信越化学のレジストが許可されたのはなぜだろうか。世耕弘成経産相は「韓国政府から『禁輸措置』との批判があり、例外的に公表した」と8日の閣議後の記者会見で述べた、と日経は報じている。
韓国から禁輸だと言われたから、そうではないことを示すために今回レジストを許可したという。ところがEUVレジストのサプライチェーンを見れば、別の見方が見えてくる。微細化プロセス向けのレジストメーカーは、JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学工業、富士フィルム、そしてデュポンがいる。この内、JSRはベルギーIMECと合弁でEUVレジスト製造会社を持ち、欧州からSamsungへ供給できる。また東京応化は韓国内にレジスト工場を持ちSamsungに供給していることから増産すれば済む。そして、日本の工場しかない信越化学が日本からの輸出となる。
こういったサプライチェーンの状況では、日本からの輸出手続きが遅れて不利を被るのは信越化学と住友化学、富士フイルムといったメーカーであり、レジストで大手のJSRと東京応化は輸出規制の影響はあまりない。こういった日本企業の不公平を是正するための今回の措置ともいえないことはない。
フッ化水素は、森田化学工業とステラケミファなどが製造しているが、韓国メーカーも製造しているという情報はある。ただし、日本のメーカーの現地生産ではなさそうだ。9日の日経は森田化学の森田康夫社長とのインタビュー記事を掲載しており、同社長は「当社の2018年6月期の売上高117億円のうち、韓国向けの半導体用高純度フッ化水素は3割強の約40億円だ。1カ月の輸出停止は単純に3億円分に相当する。韓国向けの高純度フッ化水素の日本企業のシェアは約60%だが、今回の件で日本企業のシェアが低下しかねない」と述べており、今回の貿易摩擦で危機感を募らせている。
さらに同社長は、中国の浙江省に設立した、森田化学と中国側との合弁工場で高純度フッ化水素の生産を立ち上げるとしており、中国から韓国へ高純度フッ化水素を供給できる体制を作るとしている。同社はもともと2年前から、半導体の生産が韓国から中国へシフトすると見込んで合弁工場を設立した。日本からの輸出を規制すると、日本の工場が外国へ移転し、グローバルなサプライチェーンを確立することで、民間企業は国の規制に対抗しようとしている。
トランプ大統領も華為やZTEとの貿易摩擦によって米国企業が傷つくことをようやく理解したことで、貿易摩擦は緩まってきつつある。日本の霞が関と政府が半導体ではグローバルなサプライチェーンができていることを理解すれば、政治問題を通商問題に転化することなく、決着すべき課題であることに気がつくのは時間の問題ならよいが。
先週は東芝メモリが3D-NANDフラッシュをSLC(1ビット/セル)方式にして、読み出しの高速化を図ったストレージクラスメモリ(SCM)を開発したと発表した。詳細は不明だが、96層の3D-NAND構造を使いながら、物理プレーンを16枚設け、それらを並列動作することで高速化しているらしい。これまでの既存のTLC(3ビット/セル)方式の3D-NANDと比べ、読み出し速度が10倍速い5&micrp;sのレイテンシとなり、SCMと位置付けた。SCMはDRAMとNANDストレージとの中間の速度に位置するメモリ、とIBMが定義したが、IntelはSCMとは言わずパーシステントメモリと呼んでいる。
ただし、東芝のSCMがストレージデバイスとは異なり、絶えず読み書きを行うRAM動作をさせて速いかどうかについては明らかにしていない。Intelのパーシステントメモリ(3D-Xpointメモリ)は書き込み速度も速いRAM動作を使う場合と、ストレージとして使う場合の2つの場合を想定して、高速のストレージメモリとパーシステントメモリという2レベルのメモリと位置付けている。今回のメモリの動作はどの位置にくるのかはまだ明らかではない。