実用化を加速するSiCパワーデバイス
SiCパワーMOSFETが従来のIGBT(Integrated Gate Bipolar Transistor)に取って代わると言われ続けて数年たったが、SiCパワー半導体の特性向上は着実に進んでいる。性能を競うというより、実用化を加速する動きが出てきた。また、IoTを駆使して生産性を上げるデジタルトランスフォーメーションが始まった。
2020年にSiCを採用する車を走らせる、とトヨタ自動車が公表していたが、2020年までにSiCウェーハの供給が不足すると見込まれており、トヨタは新型のIGBTに切り替えると12月17日の日経Xtechが報じた。SiCのクルマでの利用は、インバータが実用化される前に使われそうだ。まずオンボードチャージャー(AC-DCコンバータ)とDC-DCコンバータのような安定化電源回路だ。電源回路で実績を上げ、ミッションクリティカルなインバータへと展開する。
SiCデバイスがクルマに使われるようになると、その市場は大きくなり、これまでのような量産体制では対応できなくなる恐れがある。パワー半導体は、メモリなどの量産品とは違い、月産1000個程度以上を量産と定義しているためだ。クルマ応用はこれまでにないSiCパワー半導体の応用市場となる。
Siと比べ、SiCが高温に耐えられるという特長は、逆にプロセス処理しにくいことの裏返しでもある。Siよりもずっと硬いSiCの結晶インゴットからウェーハに切り出すのにも何時間もかかるが、ディスコがレーザーで切断した後、仕上げ研磨加工までを自動化することに成功、スループットを従来よりも5割高めた、と21日の日経産業新聞は報じた。ウェーハ1枚当たりの加工時間は10分に短縮したという。さらにウェーハにロット番号などを刻印し、トレーサビリティの管理も改善したとしている。
SiC MOSFETはSiのIGBTよりも高速動作が可能だが、その分使いづらいという声もある。三菱電機と東京大学はゲートしきい電圧Vthを上げることで、外部ノイズの影響を受けにくいMOSFETを開発したと発表した。これはMOS表面にS(硫黄)を添加することで、電子の一部を捕捉しゲートしきい電圧を高めながら、オン抵抗はそれほど増加しないという。また、産業技術総合研究所と富士電機は共同で、高温でのオン抵抗が1平方cm当たり0.63 mΩと低い1200V耐圧のSiC MOSFETを開発した、と20日の日刊工業新聞が伝えた。二つの発表共、12月3~5日、米国のサンフランシスコで開かれたIEDM 2018において発表されたもの。
デンソーがHV(ハイブリッド車)向けの半導体デバイスを生産する岩手の新工場が完成した、と20日の日経産業が報じた。トヨタ東日本は岩手、宮城の工場に小型車などの生産を集約する方針で、新工場は電子機器の製造拠点として機能するとしている。2019年1月から、HVに使われる半導体デバイス「パワーカード」の生産をはじめ、メーター類も製造する。SiCを生産するかどうかは明らかにしていない。
IoTを駆使して工場の生産性を高めるデジタルトランスフォーメーションを推進する、とOKIのサービス戦略を19日の日経産業が紹介している。設備の稼働率をセンサで把握し、ミスを減らす。この生産性向上のサービスを今後3年間で50億円の売上額に増やすことを目標としている。まず従業員が棚から取り出す部品をプロジェクタで指示する。部品を作業台で組み立てる工程の作業マニュアルもプロジェクタで指示する。従来はLEDで指示していたが、棚や作業台ごとに設置するためコストがかかりすぎていた。プロジェクタの導入により設備投資額を75%減らすことができたという。OKIはすでに大宝工業の工場に導入し、効果を検証している。
TDKは秋田県にかほ市の稲倉工場で、従来200mもあった生産ラインを5mに短縮、従業員の移動距離が1/50、リードタイムが1/10に短縮し、時間当たりの生産能力が4倍に上がった、と19日の日経産業が報じた。ここではフェライトコアを生産しており、これまでの材料調達、設計、生産管理、出荷まで全ての工程での不良品をなくすことに力を注いだ結果だったとしている。次はデジタルトランスフォーメーションに向けて動きだす。