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船出が決まった東芝メモリ

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東芝メモリの売却先である「日米韓連合」がようやく決着した。5月17日に東芝は、連結対象の子会社である東芝メモリを、Bain Capital Private Equityを軸とするPangea社に譲渡することを目指してきたが、残っていた一部競争法当局の承認を取得した、と発表した。この当局とは中国政府のこと。譲渡完了の事務手続きを経て6月1日に譲渡を完了する予定だという。

この連合には、Bainに加え、韓国SK Hynixが融資するほか、米Appleや米Dellも優先株を引き受ける形で加わる。日本勢ではHOYAが出資する。東芝も4割程度の出資を保つ。東芝は、東芝メモリの売却によって1兆円以上の売却益を得る。これによって、株主資本比率は4割程度まで回復する見込みだが、東芝が電力・エネルギーのインフラ関係をはじめとする産業用分野で、どのように生きていくのか、その方針はまだ示されていない。

東芝メモリはNANDフラッシュとそれを使ったカードやSSDを設計生産する企業である。日本全体がかつてDRAMを捨てシステムLSIへ舵を切り替えながらも、東芝はフラッシュメモリを持っていたおかげで、半導体メーカートップテン以内に残ることができた。かつて、ある幹部にインタビューしたとき、たまたまフラッシュを持っていたおかげです、と本音を語ってくれたことがある。歴史に「たら・れば」はないが、フラッシュを持っていなかったら、今の東芝はなかったといえる。

フラッシュメモリの実用化はIntelの携帯電話向けNORから始まった。それも東芝の元エンジニアだった舛岡富士夫氏がIEDMで最初に発表した。その話を米Electronics誌が記事にしたとき、Intelに求めたコメントでは、Intel社はフラッシュメモリを否定しておきながら、その半年後にフラッシュメモリ開発を発表していた。その用途としては、携帯にメールアドレス程度の小容量製品から出発した。写真撮影のような大容量も必要になったことから、高速だが小容量のNORから、低速でも大容量のNANDへとシフトしていった。そしてデジタルカメラ、さらにはスマートフォンへと用途が拡張してきた。さらにパソコンや、本格的なストレージ用途も開けてきた。この先もしばらく4〜5年先はフィンテックのストレージをHDDからSSDへ置き換えるという動きが続くためだ。NANDフラッシュへの要求は当分続くだろう。

東芝メモリは、この先もストレージデバイスとしてのフラッシュメモリの時代は続くが、DRAMとフラッシュとのギャップを埋める「ストレージクラスメモリ」への動きは急である。X-Pointメモリのブランド名「Optane」ストレージをIntelは、ストレージクラスメモリという位置づけに置くようになった。加えて、ストレージクラスメモリの本格的なメモリとしての位置を狙うSTT-MRAMの商用化も始まった。だからこそ、ポストNANDフラッシュとなるメモリの開発を急がなければなるまい。打倒Samsungにこだわり続けると、ポストNANDフラッシュの競争に出遅れる恐れもある。

また、RAMは今後、AIの代表的な技術であるCNN(畳み込みニューラルネットワーク)をモデルとするディープラーニングの手法にも大量に使われる。ニューロン数とレイヤー数ごとにRAMを使う。ニューラルネットワークのレイヤーごとにデータを出し入れするからだ。RAM動作が不揮発性になれば、消費電力が格段に下がりモバイルレベルのディープラーニングの推論動作は可能になる。STT-MRAMをはじめとするストレージクラスメモリは5年先にはディープラーニングとセットで大量に見込まれる。東芝メモリがポストNANDフラッシュの開発をリードできれば、AIでもリードできるようになろう。

(2018/05/21)

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