半導体産業の活況は続く
半導体産業の活況は、しばらく続きそうだ。先週は、それを示唆するニュースが相次いだ。ARMのCPUが過去25年間に集積された半導体チップの累計個数1000億個が今後4年間で達成されるという見通しを述べ、ソニーのCMOSイメージセンサのウェーハを増産する。その先の自動運転への投資、製造業を支える工作機械への投資も活発だ。
7月21日の日本経済新聞は、ソフトバンク傘下のARMのCEOであるSimon Segars氏とのインタビュー記事を掲載、同氏が今後4年間で1000億個に急増するという見通しを伝えた。ARMは携帯電話やスマートフォン、携帯ゲーム機のCPUで成長してきた会社。携帯機器用のCPUコアはもちろん、マイコン用のCortex-MシリーズをIoTの中核と位置づけ、さらに性能重視のサーバー向けのハイエンドCortex-Aシリーズを持つ。IoT端末にはマイコン用のCortex-Mシリーズを、IoT端末からのビッグデータ解析などの高性能サーバー向けにはCortex-Aシリーズを用意している。
Segars氏は、ARMが買収されて良かったことは長期的な視点で開発できることだと言い、しばらくは開発コストが売上額を上回るとの見通しを示した。長期的な投資ができるのは買収されて非上場企業となったため。上場している間は、投資家への配慮から短期的な視点での投資しかできなかったという。上場企業だと開発コストが売上額を上回ることはあり逢えない。今後のデバイスは非常に複雑になるため、十分な開発環境が必要になり、開発費用も巨額となる。ソフトバンクに買収されたことでARMは、長期的な展望で投資できるようになる。人材は2015年末の4000人弱から5000人規模に増やしたとしている。
ソニーはカメラ用のCMOSセンサの外部委託先を含めた月間生産能力を2018年3月までに現在より14%多い月産10万枚に引き上げると21日の日経産業新聞が報じた。スマートフォン用のカメラは今や最新の高機能スマホには3個搭載されており、スマホの台数が増えれば増えるほど、CMOSセンサの数は急増する。特に写真の好きな中国やアジアでは、カメラの多い高機能スマホの需要が強く、中国のスマホメーカーからの需要が回復しているという。従来なら低解像度だった裏面カメラも高解像度が求められているようだ。
数量はそれほど期待できないが、工業用IoTなどで奥行きの距離を測るセンサが登場し、ADAS(先進ドライバー支援システム)や自動運転に向けて自動車用のカメラも多数使われることがはっきりしてきたため、将来の需要も見込んで、CMOSセンサに投資する価値は高い。
イメージセンサは可視光だけではなく赤外線(IR)用の需要も増えているようだ。浜松ホトニクスは、IR用の化合物半導体(InGaAs)センサを年産1万個から、3年後に2万個に増産すると21日の日経産業が伝えた。FT(フーリエ変換)IRや赤外光スペクトルなど波長をスキャンしていくスペクトル技術で物質を同定する用途が出てきている。プラスチックのペットボトルのリサイクル仕分けで、PET樹脂かポリ塩化ビニル樹脂か簡単に判定できる。さらに食品の腐食の進行や、高級ウィスキーの真贋検査などにも使える。
SEAJが発表した6月の半導体製造装置販売は前年同月比53.6%増の1530億円だった。10ヵ月連続のプラス成長であり、半導体メモリ投資の活発による。
半導体製造ラインへの投資と同様、今後の景況を占う指標の一つである工作機械の受注額も増加している。日本工作機械工業会が発表した2017年上期(1~6月期)の受注額は前年同期比21.1%増の7642億円だった。工作機械は、産業用の機械や機械部品を作るための機械で、マザーマシンとも言われている。例えば新しいスマホやIoT端末を設計する場合に、実際の製品の形を製作したり、その製品を量産するための金型を生産したりするのに使う。工作機械の受注が増えているということは、1~5年後の商品を市場に出すために使う機械が増えていることであり、今後も景気が続くことを意味する。
現実のモノづくり(ITに対してOTとも言う)に対して、ITソフトウエアへの投資も活発になっている。自動運転で車内外の様子を分析するためのAI(人工知能)システムを開発している米Nauto社にソフトバンクらが投資すると、20日の日経が報じた。Nauto社にはトヨタ自動車(Toyota AI Ventures)、BMW iVentures、General Motors Ventures、保険のAllianz Groupなどがすでに出資しているが、今回のラウンドでは、ソフトバンクと米投資会社のGreylock Partnersも投資に参加し、総額1億5900万ドルに達した。
フォトレジスト製品で半導体産業にはなじみ深いJSRは、3Dプリンタの光造形用の材料製品を持っているが、このほど3Dプリンテイングの医療用のデータ解析・加工に強いソフトウエアメーカーのレキシーを買収することで合意した。これもOTとITが協力し合う事例であり、JSRの将来の布石である。