GEのCEO辞任で見えてきたパリ協定離脱の影響
米国時間6月12日、General ElectricのCEOであったJeff Immelt氏が退任した。14日の日本経済新聞は、株式市場が同氏を支持しなくなったことを報じた。ここ数週間、GEの株価は低迷し、12日にImmelt氏の退任表明の後、株価は3.5%上昇したことを伝えている。Immelt氏はIoTを工場に導入し、Industrial Internetを提案した人物でもあった。
日経は、GEが提唱してきたIndustrial InternetよりもGoogleやFacebookの方が企業価値は高い(すなわち株価が高い)ことを述べている。もちろんそれは事実ではある。しかし、Immelt氏はこれまでにないようなIoTを利用する方法で工場の生産性を上げたり、ディペンダブルな製品を開発できることで新しいビジネスモデルを提案してきた。現実に製造業は、「デジタルツイン」や「デジタル化」、「デジタル変換」などITやIoTを駆使することでこれまでできなかった新しい生産性を上げられるようになってきた。
欧州の重電や製造ソフトウエアをメインとするシーメンスと、製造業や企業向けERPソフトウエアで圧倒的に強いSAPが提案するIndustry 4.0も、工場の変革を促し、GEと並んで工場の生産性アップを目指してきた。もちろん、日本でもGEやドイツのIndustry 4.0を積極的に採り入れようとしている。
ただ、日本はソサイエティ5.0と呼ぶ、Industry 4.0と何が違うのかわかりにくい言葉を持ち出した。15日の日経は、ある大手商社幹部の言葉を引用し、「お題目よりも政策をしっかり進めてほしい」というコメントを掲載、「新味のある政策が乏しく、キャッチフレーズで目先を変えただけとの辛口評もある」と結んでいる。
IDCやGartnerなどの市場調査会社は、IoTを使って工業界の業務をクラウドというサイバーの世界と現実の物理的な工場の機械とを1対1で対応させたデジタルツインという言い方を好む。最近、モノづくり企業からデジタル化(digitalization)、デジタル変換(digital transformation)ということ言葉をよく聞くようになった。製造業や企業の業務効率をさらに上げるための手法であるが、これもGEが最初に提案したIndustrial Internetをベースとしている。
GEはIndustrial Internetの提唱だけではなく、実際にPredixという工業用IoTシステム向けの製品も出している。これは、クラウドでデータ解析するためのソフトウエアツールであり、工業用IoTでは欠かせない定評のあるツールの一つだ。
日経は、イノベーションの主役がGoogleやAmazon、Facebookに代わったためにGEの株価が下がったとみている。実際、ここ数カ月間、株価はじわじわと下がってきた。だが、GoogleやFacebookはサービス業であり、GEの製造業とは企業形態が異なる。共にクラウドを利用する点は同じだが、GEのImmelt氏はトランプ大統領のパリ協定離脱に対して失望を表明したことが、社会インフラや政府と結びつく大手製造業として株主から敬遠されたのではないだろうか。これまでトランプ大統領が就任して以来、大統領に近づいていたTesla MotorsのCEOであるElon Musk氏も、パリ協定離脱表明後に、トランプ大統領の諮問委員会の委員を辞任している。しかし、Teslaの株価はCEOが6月2日の諮問委員辞任した後も、上がり続けてきた。
GEの株価低迷は、GEが東海岸にあり、Teslaと違ってシリコンバレーにないことかもしれない。これではGEにとって不運というしかない。発電設備をはじめとする社会インフラ設備を製造する企業にとっては、東海岸の拠点を離れられないことは常識だからだ。GEの業務を株主に理解させ、製造業が成長できる道筋を時期CEOが示すことが求められている。