パソコンにもARMアーキテクチャが本格化
これまでのパソコンは、Wintel(ウィンテル)と呼ばれるくらいIntelとMicrosoftとの結びつきが強かった。ここにMicrosoftのWindowsとARMアーキテクチャとの新たな連携が生まれた。実際にチップをWindows 10パソコンに供給するのは、Qualcomm社だ。すでにASUSやH-P、Lenovoといった大手パソコンメーカーが出荷を準備している。
このニュースは、5月30日から6月3日にかけて台湾の台北市で開催されたComputex Taipei 2017 の期間中の31日、QualcommとMicrosoftがそれぞれ発表したもの。QualcommのアプリケーションプロセッサSnapdragonはARMアーキテクチャをベースとしており、そのモバイルプロセッサは、IntelのCPUとは異なり、CPUの他にGPU(グラフィックスプロセッサ)、ISP(イメージ信号プロセッサ)、Wi-Fi、Bluetooth 5.0なども集積している。このチップを搭載したパソコンは、Microsoft Officeを含むすべてのWindows 10のアプリケーションソフトをサポートする。
このニュースを取り上げた日本の新聞はほとんどなかった。QualcommがWindows 10に搭載するSnapdragon 835をリリースした、といった程度の発表文だったため、新聞記者がおそらく飛びつかなかったためだろうと推測する。
しかし、SnapdragonはARMアーキテクチャに改善を加えながらアップグレードしてきた。今回のCPUもQualcommはKryo 280と呼んでいるが、ARMの64ビットARMv8-Aアーキテクチャをベースにしている。今回のSnapdragon 835は、最新の10nmプロセスで設計しており、Samsungがファウンドリとして製造したものだ。この結果、前世代の16/14nmプロセスと比べ、35%小さくなり、消費電力は25%低くなった。
一方のMicrosoftは、Intelとの関係を解消する訳ではなく、むしろ「Intelだけ」からQualcommも加えることで拡大を図る。Windows 10をベースにしたモバイルデバイス向けの新機能「Windows 10 Fall Creators Update」の三つの特長(Mixed Reality、IoT、Always Connected PCs)のうち、Always Connected PCs(いつでも使える常時接続のパソコン)を適用した。
Intelはパソコン向けのCPUが主力製品だったが、パソコン市場が伸びなくなった今、市場の縮小が続いているデスクトップには見向きもせず、ウルトラブックや2-1などのモバイルパソコンなど成長性のある分野に力を入れ、売り上げ低下にブレーキをかけている。もちろんサーバやデータセンター、エッジコンピュータ、HPC(High Performance Computing)、IoTゲートウェイなどの成長分野にも力を入れている。さらにAIや自動運転など新分野へも買収を通じて準備している。
Intelが力を入れているモバイルパソコンの市場において、Microsoftは両社と手を組むことでIntel以外の道を広げることを狙っている。「Windows 10 Fall Creators Update」の三つの特長のうちの他の二つ、Mixed Realityは、Microsoftがすでに発表したヘッドセット向け、IoTはIoT端末向けの機能である。共に非パソコン市場を狙った機能である。
元々、CDMAモデムの技術会社であったQualcommにとっては、携帯電話からスマートフォンやタブレットへ広げることで、ARMコアをベースとしたコンピューティング技術も得意技術として育成してきた。しかもCPUにGPUやISPなどの機能を集積したアプリケーションプロセッサ事業では確固たる地位を築いた。今度はコンピューティング技術を生かし、モデム技術も集積したチップでパソコンに進出する。
Qualcommのパソコン進出は、ARMにとっても新分野の開拓につながる。ARMアーキテクチャはこれまでゲーム機や携帯電話、スマホといった低消費電力を売り物にする用途で使われてきた。モバイルのプラットフォームとしてのスマホの成長はまだ止まらない。もちろん、IoT向けのARMマイコンでも期待は大きいが、その市場規模はまだそれほど大きくはない。一方、CPUとメモリを集積することで広バンド幅のHPCやデータセンター用途でも開発が進んでいる。今回、Qualcommのパソコンへの進出を通して、ARMを買収した孫正義氏のほくそ笑んでいる姿が目に浮かぶようだ。