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東芝メモリ株式会社が始動

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東芝が半導体メモリ事業の分社化を、30日に幕張メッセで開催した臨時株主総会で決議した。これにより、東芝の半導体メモリ事業は4月1日をもって予定通り、東芝メモリ株式会社となる。2017年3月期の決算では、1兆100億円の赤字になる見込みで、このままでは6200億円の債務超過が見込まれ、まさに倒産しかねないからだ。

東芝の6200億円という途方もない債務超過は、倒産そのものを表しているが、幸いにも半導体メモリ事業という超優良事業部門を持つため、ここを売却することで債務超過を解消し、倒産を免れよう、ということが今回の売却の目的である。半導体メモリ事業の時価が2兆円以上と東芝は見込んでいるが、その通りに売却できれば債務超過は打ち消すことが可能だ。2兆円という事業価値の推定額は、SanDiskが1兆9000億円でWestern Digitalに売却したことによるようだ。SanDiskと四日市工場を折半して持っており、生産額も同程度(東芝の方がやや多い)ということから2兆円以上、とみているのであろう。

ただし、市場経済の売り手・買い手の関係から見ると、SanDiskの場合はWestern Digitalが欲しくて、つまり売り手市場だったが、今回は東芝側が買ってもらいたい、つまり買い手市場となっているため、買いたたかれる恐れはある。東芝は、積極的に半導体メモリ事業を売却するのではなく、倒産する恐れがあるから資産をやむなく売却するのである。

東芝は、臨時株主総会の前夜、米国の子会社で原子力発電事業を推進するWestinghouse社が米連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を連邦破産裁判所に申請した、と発表した。これによってWestinghouseは連結対象から外れ、東芝の財務を傷つけるリスクは縮小する。この子会社は再生手続きに則って事業再編を念頭に事業を継続していく。このために、8億ドルの第三者ファイナンスを確保し、そのうち東芝は2億ドルを上限として債務保証を行う。

1兆円の赤字は次のような計算からくる。Westinghouseが連結対象から外れることから、のれん減損の悪化影響は除外されたために2000億円の改善が見込まれるものの、契約上に親会社保障額(6500億円)と債権全額に対する貸倒引当金(1756億円)を見込むと、6200億円の追加赤字となる。2017年2月14日に発表した3900億円の赤字額に追加され、1兆100億円となる。

株式資本ベースでは、4700億円の追加悪化になり、やはり2月14日の発表金額1500億円から6200億円の債務超過になる。

さて、東芝の新会社「東芝メモリ」には、Western Digitalに加え、韓国のSK Hynixなど米韓台10社前後が名乗りを上げた、と3月31日の日本経済新聞が報じた。その中で米投資ファンドのSilver Lake Partnersや半導体のBroadcomが2兆円程度の高い買収額を示したもようだという。

この中で、同じNANDフラッシュを手掛けるWestern Digitalと、NANDフラッシュを生産する競合のSK Hynixだが、Western Digitalは世界一のHDDメーカーからNANDフラッシュによるSSDやフラッシュストレージメーカーへと脱皮を図っている。このため東芝を「欲しい」と思っているが、SK Hynixは要注意だ。なにせ、エルピーダメモリの時にも買収の手を上げ、デューデリジェンスのための工場見学でさんざん工場を研究しつくした挙句、買収を取り下げたと言われている。東芝の場合も四日市工場をさんざん見て研究しつくした後で、買収をやめるというストーリーがありうる。

またSilver Lake Partnersは、通信半導体のBroadcomやコンピュータのDell Technologies、イーコマースのAlibaba Group、セキュリティソフトのSymantecなどに投資しているハイテクの投資ファンドである。しかも、10年間株式を持ち続けているハイテク企業もある。Broadcom Ltdは、有線通信が得意だったAvagoが無線通信のBroadcom Corpを買収し、Broadcom Ltd.とした。AIやクラウドでは高速株式取引(High frequency trading)のためにNANDフラッシュが強く求められており、ハイテクファンドや旧HDDメーカーが狙う戦略は理に適っている。

(2017/04/03)

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