東芝、メモリ事業の分社化を決定
東芝がストレージ&デバイスソリューション(S&S)社のメモリ事業(SSD事業を含むが、イメージセンサ事業を除く)を、3月31日をメドに会社分割すると発表した。これまで新聞報道で半導体部門を分割すると報じられてきたが、NANDフラッシュメモリ部門だけの分割にとどまった。
東芝の決定は、2006年に買収した米Westinghouse社がCB&Iストーン&ウェブスター社を買収したことに起因する。買収企業の時価評価資産額と買収金額との差を示す「のれん代」が当初よりも10倍も大きい数千億円規模(日本経済新聞は最大7000億円と報じている)になることが最近わかった。2017年3月期(2016年度)に見込んでいた1450億円の黒字が吹き飛んでしまうほどの大きな赤字額である。2016年3月期には不正会計の発覚により継続事業の税引き前損益が6331億円の赤字になり、メディカル部門の売却益を得て、純損益4600億円の赤字として赤字幅を減らしたばかりだった。
こうなると、東芝は債務超過に陥る恐れが出てきた。いわば「倒産」である。このままでは、儲け頭のNANDフラッシュ部門共々倒れてしまっては元も子もない。NANDフラッシュは、携帯電話からスマートフォン、さらにパソコンに至るまで広がりを見せ、2年前からストレージ用途でもHDDに代わるデバイスとして、特に金融市場から高速取引(High frequency trading)の要求が強まり、SSDやフラッシュストレージの需要が高まりを見せている。これらの市場を駆逐するにも4〜5年は成長が続くだろう。また、AIのストレージへの要求も今後強まるだろう。NANDフラッシュの未来は明るい。
だからこそ、せめてNANDフラッシュメモリ事業だけでも切り離して、倒産を避けようとして、今回の分社化につながった。分割するメモリ部門の連結売上額は、2015年度通期で8456億円、連結営業利益は1100億円と見込まれている。営業利益率は13%とまずまずである。2015年度はそれでもNANDフラッシュの価格はDRAMに引きずられて少しは下がったが、2016年度の特に後半からは価格は上がり、品薄状態が続いている。営業利益率はおそらく20〜30%になるのではないだろうか。絶好調のNANDフラッシュを共倒れさせてはならなかった。1月30日の日経産業新聞は証券アナリストのコメントとして「メモリ新会社の事業価値は1兆5000億円以上」と見込んでいる。
一方で、東芝のメモリを除く半導体事業は、NANDフラッシュほど利益を稼いでいない。S&S社は、メモリ事業部(さらに先端メモリ開発センターとメモリ技術研究開発センターも含む)、ストレージプロダクツ事業部、ディスクリート半導体事業部(先端ディスクリート開発センター含む)、ミックスドシグナルIC事業部、ロジックLSI統括部、半導体研究開発センターという事業部門がある。メモリ事業部以外は本社に残すという今回の決定は、半導体ビジネスにとって最適解だろうか。
最近のIoTにしろ、AIやロボットにしろ、システムを構築するのにはさまざまな半導体製品が必要で、それらが互いに関連し合いシステムの価値を高めるという方向に向かっている。もちろん、メモリも、ロジックも、アナログやミックスドシグナルも必要となる。これらをチップセットとして提案するビジネスが最近のトレンドになっている。NANDメモリだけを切り離す以上、残された他の半導体部門は、利益の出るビジネスへと意識を変えなければならない。不揮発性メモリを除くチップセット提案ができるような半導体ビジネスを推進していける体制を一刻も早く構築すべきであろう。東芝が持つ全ての半導体製品を顧客に提案でき、デジタルもアナログもソフトウエアも理解できる、シニアエンジニアの養成も急がれる。