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東芝は半導体の分社化を急げ

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先週は、東芝が半導体事業部門の分社化に関するニュースを日本経済新聞および日経産業新聞が追いかけた。その背景には米国における原子力部門の損失額が数千億円規模という巨額だったことがある。米国では、トランプ大統領の就任式が米国時間20日に行われ、それを巡る報道がこの週末を駆け巡った。

ことの発端は、日経が18日に「東芝は主力のフラッシュメモリーを含む半導体事業を分社し、ハードディスク駆動装置(HDD)世界最大手、米ウエスタンデジタル(WD)から出資を受ける交渉に入った。米原子力発電事業で数千億円規模の損失計上を迫られる中、財務への懸念を払拭し、半導体への投資余力を確保する」と報じたことだった。この報道に対して、東芝は「本日の日本経済新聞など一部報道において、『半導体事業を分社し、米ウエスタンデジタルから出資を受ける交渉に入った』、『将来の新規株式公開(IPO)も検討する』との報道がありましたが、当社から公表したものではありません」というニュースリリースを発表した。

東芝の事業内容は、2016年度見通し(2017年3月期)で原子力・火力などを含むエネルギー事業1兆6800億円、半導体・ストレージ部門1兆5500億円、インフラおよび産業ICT部門1兆5350億円、その他1兆400億円など、となっている。判明した巨額の損失額は原子力すなわちエネルギー部門から出ている。売上額は5兆4000億円を見込んでいるが、経費分も多いため、見込まれる利益はわずか1450億円と綱渡りの状態だった。そこに数千億円といわれる巨額の損失が発生したため、わずかな利益は吹っ飛ぶことに加え、損失額によっては債務超過(ほぼ倒産に匹敵)に陥る恐れも出てきた。

巨額の損失の元は、グループ会社である米国ウェスチングハウス社が買収したCB&Iストーン&ウェブスター社の資産価値の評価額が買収金額よりも大きく下回り、この差額が数千億円規模になることが12月末に判明したことだ。この数千億円が最大5000億円と日経が報じていたが、20日には最大7000億円になりそうだ、と追加報道した。全負債が全資産を超えてしまう債務超過になる危険が出てきたのである。20日に東芝は、ウェスチングハウスによる原子力発電所向けの部品会社Nuclear Logistics社の買収を取りやめるというニュースを流した。東芝の資金調達はもはや待ったなし状態になっている。

債務超過になると、せっかく利益を生み出している半導体ストレージ部門までが共倒れになる危険性が出てくる。そこで、S&S半導体部門を分社化しようという動きになっている。少なくともNANDフラッシュ事業は、携帯やスマホで成長してきたことに加え、これからもSSDやフラッシュストレージなどNANDフラッシュの用途は拡大を見せている。成長は間違いない。だからこそ、分社化は一刻も早く急ぐべきであろう。もちろん、どのような形で分社化し、資金調達・設備投資・製品戦略など今後の方向をどうするかについて社内で議論が多いだろうが、ぐずぐずしていると共倒れになる恐れもある。

一方で原子力は国策とも関連する。現政権は原子力を手放さない方針であるから、東芝の原子力事業を支援することは間違いないだろう。米国は1979年のスリーマイル島の原発事故以来、新規原発を30年以上受注しておらず、最近計画された新規原発でさえ、まだ稼働していない。原子力事業は、国策会社として再出発することが現状に即しているのではないだろうか。

米国の行方はトランプ大統領が20日に就任したものの、依然として方向がはっきりしない。就任演説は新しい方針や具体的な政策が何も出ていなかったと投資家には映り、翌日のニューヨーク株価は下落した。これまでは石炭労働者や、化石燃料従事者などローテク職業を取り戻そうという声明を打ち出してきたが、ハイテク産業への取り組みは、全く見えてこない。ただ、商務長官に任命されたウィルバー・ロス氏は、対外貿易でのトランプ氏の発言を和らげるという役割を果たしている、と今のところ好評のようだ(参考資料1)。


参考資料
1. コラム:ロス次期米商務長官、トランプ政策を巧みに「通訳」、ロイター (2017/01/19)

(2017/01/23)

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