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大型買収はまだ続く、SiemensがMentor、SamsungがHarmanを

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大型買収はまだまだ止まらないようだ。先週は、Industry 4.0を推進するドイツSiemensが米国のEDA企業Mentor Graphicsを45億ドルで買収するというニュースが駆け巡り、韓国Samsungが米国のクルマのインフォタインメントとオーディオ機器に強いHarman Internationalを80億ドルで買収することで合意した。

Siemensは電車を最初に発明した老舗の機械のメーカー。今はファクトリーオートメーション向けのハードウエアとソフトウエアに力を入れており、Industry 4.0の提唱者でもある。日本はこの分野は三菱電機がめっぽう強く、Siemensの参入は容易ではないが、製造業向けのPLM(Product Lifecycle Management)ソフトウエアに定評がある。製品の開発から量産、さらに生産停止までの製品の全てに渡る情報を管理するソフトウエアである。これは、コンテンツ作成のCMS(Content Management System:コンテンツ管理システム)の製造版と考えるとわかりやすい。

一方、米国オレゴン州をベースとするMentor Graphicsは、半導体の設計EDAツールから始まり、プリント基板の設計ツール、最近では組み込みシステム設計ツールや熱設計シミュレーションツールや、クルマのワイヤーハーネスの設計ツールまで手掛けている。

SiemensのPLMソフトウエアにMentorのソフトウエアを載せると実は、最強の製造系のソフトウエアシステムが出来上がる。SiemensのPLMは、LSI設計者が量産に向けて情報をまとめたExcelやPowerpoint、Wordなどの情報ファイルを全て、PLMの巨大なソフト上に載せ見て操作できる。生産に必要なサプライチェーンから生産中止に至る製品の全ての情報を載せているため、設計開発から生産中止までの製品の全てを一気通貫で管理できる。つまり、開発時に用いた部品や材料、ベンダーなどの製品情報をそのまま量産に利用できるため、開発時と量産時で工程や部材をスムースにつなげることができる。利用するメーカーは製品の立ち上がりが早くなるというメリットがある。

この合併について、半導体専門のウェブサイトDeepChipが238名のEDAユーザーにアンケートした結果が掲載されている(参考資料1)。この合併は、EDAユーザーにはあまり歓迎されていない。46%が良くない、29%が良い、と述べている。さらに良くもあり悪くもあると答えたのは27%もいる。良いと答えた人の内で最も多かった理由は、「この合併はMentorを最終的に安定にするから」が21%で、その次が17%で「SiemensはMentorのIC EDAにもっと投資してくれるだろう」と答えた。

合併を良くないとするエンジニアは、「EDAベンダー間の競争が減ってしまう」が19%と最も多く、次いで「SynopsysとCadenceの2強の独占を加速する」(16%)として、半導体設計者の間では2強による寡占化を心配している人は多い。

国内の新聞は、Samsungの買収を大きく報じた。Harmanはティア1サプライヤといえ、カーオーディオやカーナビなどのインフォタインメントに強く、最近ではテレマティックスなどクルマの通信にも力を入れている。2018年に欧州で始まるeCallサービスを機にコネクテッドカーが本格的に立ち上がるため、クルマの通信に強いHarmanを買収したのであろう。

Samsungにとってクルマ市場は入りたくてうずうずしてきた分野であり、1997年の通貨危機の前にはクルマを試作したが自動車産業への参入を政府によって止められたという苦い経験がある。Samsungは家電と半導体(メモリとファウンドリのみ)に特化してきたメーカーであるが、近年はスマートフォンで企業を伸ばしてきた。しかし、Galaxy Note 7のバッテリ発火事故を起こし、売り上げを大きく落とした。とはいえ半導体事業はまずまずで、メモリが供給過剰だった2015年後半から2016年前半までの景気後退期はファウンドリでカバーしている。

さらに、最近はQualcommからのファウンドリを受注し、半導体事業を安定化させているが、スマホの次の柱を狙うという意味で、Harmanの買収を位置付けられるだろう。ただし、クルマはインフォテインメントだけで動くわけではない。Samsungは制御系をどうするのか、誰かとパートナーシップを結ぶのか、あるいは買収してしまうのか、クルマビジネスでソリューション提案するために必要な手立ては今後も続く。


参考資料
1. What 238 IC EDA users think about the Siemens/Mentor buyout (2016/11/18)

(2016/11/21)

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