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トランプ米大統領誕生後の半導体業界はどうなるか?

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米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれた。ドナルド・トランプ氏は、メキシコとの国境に壁を作ろうとか、もっと日本や中国からモノづくりを戻してこようとか、TPP撤廃、NAFTA撤廃などを訴え、米国の孤立主義を煽り立ててきた。半導体業界、IT業界の今後4年間はどうなるのか?

トランプ氏が選ばれたことで、今回、これまでの大統領選挙での米国民の行動とは違う面が見られている。「Not my President(私の大統領ではない)」とデモ行進が連日報道され、カリフォルニアは独立しよう、という声が上がったりしている。これまでは、共和党・民主党の意見の対立があったとしても、民主的に選挙で選ばれた以上、4年間は意に反する大統領だとしてもこれほどのデモは起きなかった。


図1 11月10日の日本経済新聞に掲載された出口調査結果

図1 11月10日の日本経済新聞に掲載された出口調査結果


一方で、テレビをはじめとするマスメディアの見方には間違いも多かった。若い人が雇用不安や安い給料での労働、格差社会に対する不満などでトランプ氏に賛成したという見方が多かったが、実際の出口調査は違った結果をもたらした(図1)。11月10日の日本経済新聞によると、トランプ氏に投票した多くの人は、白人女性・男性であり、45歳以上の高年齢層であり、年収5万ドル以上の所得者であった。女性に対する差別発言をトランプ氏がおこなっても白人女性はトランプ氏を支持したのである。

モノづくり産業にとってトランプの勝利には疑問があるという意見も出ている(参考資料1)。米国製造業では、メキシコに工場を建設している企業が多く、電機・電子・自動車・航空機部品産業などが集積している。例えば、フォードはメキシコ工場でクルマを製造し、米国に輸入している。NAFTA(北米自由貿易協定)によって、米国・カナダ・メキシコの3国でかなりの数の製品の関税が撤廃された。この恩恵をトランプ氏は撤廃すると発言している。日本のマツダやホンダもメキシコに工場を稼働させており、トヨタも工場を計画している。NAFTAを撤廃されるなら、関税によってこれまでの米国への輸出のコストが上昇する恐れがある。

さらに、エネルギー政策も変わる可能性がある。トランプ氏は炭鉱労働者を支援することを誓っていた。石炭需要が減少しており、2015年に6万7000人の労働人口が現在5万6000人に減っているという。環境問題に関してもこれまでの規制を撤廃すると述べている。

半導体産業はどうか。この問題についてはまだ誰もコメントしていないが、トランプ氏の米国孤立主義は、これまでのエコシステムを中心とした半導体産業とは相容れない。米国を含む世界の半導体産業のトップメーカーたちは、グローバルな協力関係を構築することでベストの部品とベストのソフト、ベストのツールなどを選び組み合わせ、自社の知恵をそれらのシステムに組み込むことで、早期に出荷でき差別化商品を作ってきた。1社だけで最高の製品は作り込むことが難しい。

エコシステムでは、部品、ソフト、ツールなどを作る企業と協力しながら設計・製造していく必要があるが、そのためには相手を敬い、対等な立場で一緒に議論し合い、より良いものを作っていく。つまり、差別意識があってはパートナーにはなりえない。女性蔑視、人種差別、国差別、宗教差別を露骨に行ってきたトランプ氏の発言は、一緒に対等で仕事をする関係の意識とはほど遠い。

ハイテク業界では、環境に優しい電気自動車を生産しているTesla MotorsのElon Musk氏は、トランプ氏の石炭優遇政策とは反する。Musk氏はソーラーシティも進めているが、このような環境に優しい持続可能な社会を推進する戦略もトランプ氏の思惑に反する。Musk氏はまだ発言していないが、戦略練り直し、との報道もある(参考資料2)。

ただ、トランプ氏の言動には世界各国に対する認識の誤りも多い。モノづくりに関しては、米国企業は日本にモノづくり工場をほとんど持っていないが、彼は、「中国や日本から米国製造業は引き上げるべきだ」と言っている。中国は正しいが日本に関しては正しくない。また、日本における米軍に対しては防衛予算から1920億円(2016年度予算)を計上しているのにもかかわらず(参考資料3)、日本にも米軍の費用を払わせるべきだ、と発言している。要は、知らずに事実と違うことを発言してきた。もちろん、政治経験はない。

今後は修正していくのか。そうであれば支持者からは公約違反と取られる。このままトランプ氏がこれまで通りの公約を進めるなら、米国のハイテク業界は、これまでの勝ちパターンに逆行し世界から遅れることになるかもしれない。ただ、半導体業界は政治とは無関係に進むだろうが、自由貿易撤廃によるコスト増は業界にとって望ましくない。日本の半導体業界にとっても壁は不利になる。

参考資料
1. Trump Win Could Mean Big Questions for Manufacturing, Design News (2016/11/9)
2. Donald Trump’s sweep could be a big setback to Tesla and Elon Musk, Chicago Tribune (2016/11/13)
3. 在日米軍駐留経費負担の推移(平成22年度〜28年度)、防衛省・自衛隊

(2016/11/14)

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