クルマのプロセッサチップ開発が活発に
クルマの自動運転に向け、IntelやQualcommらがクルマ用のプロセッサチップに力を入れるというニュースが続出した。さらにルネサスはクルマ用プロセッサチップの一つR-Carの開発ツールを発表、テストメーカーのアドバンテストは大学と組み自動運転車を試作、展示した。東芝も画像認識用のプロセッサ開発に乗り出した。
Intelの記事は、10月20日の日本経済新聞が報じたもの。「カメラやセンサが集めた情報を元にハンドルやブレーキの最適な操作を瞬時に判断する」という、ごく当たり前のクルマ用マイコンの基本中の基本動作しか述べていないため、その詳細は全く不明だが、Intelがクルマに参入する以上、もっと高度な「演算」を行うCPUやSoCを設計するに違いない。人物認識、トレースをリアルタイムで行い、その情報を「制御」用マイコン(ルネサス成果もしれない)に送る訳だが、Intelはマイコンも手掛けており、制御系へも参入してくる可能性もある。
Intelは、産業が減衰し始めているパソコン以外のプロセッサ、すなわち組み込みシステム向けのCPUやIoT、パソコンよりもっと高度な演算を必要とするサーバシステムに力を入れ、収益改善に努めてきた。Atom、CORE、Xeonといったプロセッサはまさにローエンドからハイエンドまで揃えており、クルマ用には実はどれも全て当てはまる。XeonやCOREのようなハイエンドないしミッドレンジは演算命令リッチなCPUやSoCであり、AtomはIoTセンサ端末のような制御命令を中心のマイコンやローエンドのCPUである。
クルマ技術は、「走る・曲がる・止まる」の基本機能から、安全・安心・快適へと広げてきて、究極的には自動運転へと進む。CPUのようなソフトウエアで処理する半導体は、さまざまな機能やこれから現れる規格に対応できるフレキシビリティを持つ。もちろんクルマの車両やボディ、ダッシュボードなど制御系のマイコンとも両輪として不可欠。だからこそ、CPUのトップメーカー、IntelそしてQualcommもクルマ市場に力を入れ始めている。
Qualcommは、Intelを始め、クルマメーカーのAudi、BMW、Daimler、通信機器メーカーEricsson、Nokia、華為技術と共に「5G Automotive Association」を9月下旬に設立した。V2Xをはじめとするコネクテッドカーのシステムを開発・テスト・販売促進し、その標準化をサポートし実用化を早めるためだ。ほぼ同時期に欧州の3GPPが既存のモバイルネットワークをクルマにも使う「Cellular V2X」規格の第1案を作成したと発表した。LTE-Directを利用する「C-V2X Direct Communication」という規格であり、ピア-ツー-ピアの通信に対応しているため、セルラーが十分カバーされていない地方でも使える仕様になっている。さらに、V2Xの運用に追加サポートするための「C-V2X Network Communications」規格も3GPPのリリース14において2017年3月に策定する計画だ。
「(世界第2位のティア1メーカーである)デンソーは、コネクテッドカーが交通システムと情報を取りするシステムを、2025年をメドに開発することを明らかにした」と10月22日の日経の中部地方経済面は報じている。デンソーはさらに、東芝とも画像認識向けのAI(人工知能)技術を共同開発すると発表した。Deep Neural Network(DNN)と呼ぶIPで、クルマから見える歩行者や自転車、他のクルマ、道路などを認識する。この専用ハードウエアIPをSoCに組み込み、SoCを製品として販売する。日経によると2018年中にサンプル出荷する予定だという。
SoCはもはや単体では売れない時代になっている。SoCにソフトウエアを埋め込むためのツールが不可欠。また、クルマ産業への参入を図る企業向けにも開発ツールがなくてはLSIにノウハウを織り込めない。ルネサスエレクトロニクスは、ソフト開発ツールである「R-Carスターターキット」をリリースした。画像認識や演算処理、ドライバーへの伝達手段などに必要なソフトウエアを外部のソフトハウスと協業体制を築いて開発し ていく。ルネサスのエコシステムへの参加者は499ドルで開発キットを手にし、すぐに車載向けソフトの開発を始められるという。