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IoTシステムはやはり工業用が先行

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IoTシステムの利用が広がりつつあるが、工業用途が圧倒的に多い。工場の生産ラインに導入する、保守点検に利用する、といった工業用IoT(IIoT)の活用が活発になっている。これに対して、クラウドまで含めたIoTサービスの提供も始まった。

自動車部品大手のジェイテクトは、軸受けを製造する工場の生産ライン19本の内の8本にIoT端末を設置した、と8月26日の日経産業新聞が報じた。自社開発のIoT端末(ジェイテクトはトヨプックプラスと呼んでいる)を工作機械などに取り付け、端末のセンサで機器の不自然な動作などから故障の予兆を見つけ、事前に対策を講じる取り組みを始めた。始める前と比べ、緊急停止の回数が30%減り、稼働率は4%向上したという。

東京電力は、電力設備の点検作業にIoT端末を利用するという記事を26日の日経産業が掲載している。送電線ケーブルが複雑に絡み合う地下の送電設備のあちこちにIoT端末(東電は張るセンサーと呼んでいる)を張り付け、継続的にデータを取得、設備の劣化を監視する。作業者の目視よりも効率や精度が高いとしている。今年度中に取り付けをはじめ、合計500kmに及ぶ地下ケーブル設備で実用化を目指す。

東電は、IoT端末だけではなく、Bluetoothのビーコンを使った作業効率の改善も目指す。変電所内にビーコンを十数個配置し、作業者が持つスマートフォンから位置データを収集する。作業者の軌跡や歩数、作業場所での滞留時間などのデータをパソコンに送ることで本部から管理でき、行動分析に使うという。ビーコンは常にBluetoothの電波を発しており、作業者のスマホでその電波を受ける。ビーコンを多数配置することで、スマホはどのビーコンの電波が強いのかを知ることができ、作業者の位置を特定できる。

NECは、災害対策として、斜面の微弱な振動から地滑りなどの土砂災害を察知、発生の10~40分前に警告できるシステムを開発、実証実験を開始した、と25日の日経産業が報じた。このシステムではIoT端末(センサ)を土砂災害危険個所の斜面などに埋め、強い雨が斜面にたたきつけた時に発生する微弱な振動を観察し、そのデータを無線で本部やゲートウエイなどに送る。データを解析し、土砂の重量や粘土、地中の水圧などを割り出し、危険度を見積もる。危険水準に達したら自治体や鉄道会社は、非難を促したり電車を止めたりできる、としている。富士通エフサスは、さいたま県土整備事務所に河川監視システムを納入したという。また、日本ユニシスは基地局同士を無線でつなぎ、情報発信できるシステムを開発したという。これも災害向けでセルラーネットワークが混雑して使えない時でも互いにカバーし合える。

通信業者(オペレータ)や通信機器メーカーは、IoTシステムの中でデータ解析や運用などIoTサービスに乗り出している。KDDIは企業向けにデータの蓄積から分析、運用までのサービスを提供する、と25日の日本経済新聞が伝えた。顧客のメンテナンス時期をいち早く知り、顧客の運用コストを抑える狙いがあるという。住宅産業や機械メーカーなど幅広いB2B業界に販売する。システム設計からネットワーク管理、センサや機器から集めたデータを分析するとしている。ソフトバンクがARMを買収してIoT端末に力を入れるのとは対照的だ。また、通信機器大手のノキアソリューションズ&ネットワークスは、IoTを利用して工場設備の稼働監視などに使う情報システムの提供を始めた、と26日の日経が報じた。ノキアのシステムではIoT端末を通してさまざまな機器からデータを収集・分析するだけではなく、不正な機器の接続を防ぐ認証機能を備え、セキュリティを確保したのが特長という。

IoTシステムを設置した例が出てきているが、それらの結果はこれからである。この例の中で唯一の結果を出したジェイテクトの結果では、それほど効果が上がっていないともいえる。しかし、実はIoTで最も難しいことは、何を故障と判断するか、どのようなデータを集めれば故障といえる判断ができるのかを探し出すことである。この判断が、機械の様子や応用対象のモノの様子を正確に表しているか、を経験値と照らし合わせて、求める必要がある。だから、IoTを利用するビジネスでソフトやサービス業種では、このノウハウをつかむことが難しい。センサ端末(IoT端末)を握っている企業なら、顧客と話をしながらセンサやマイコンなどを調整していくことができる。そして得られるデータを見ながら、どのようなセンサを開発し、マイコンのソフトを改良すべきかを知る。このため、半導体メーカーやIoT端末メーカーは、サービス企業よりも有利な立場にはある。ただし、それを活かせるか、活かせず下請けになるかは半導体メーカー次第といえる。

(2016/08/29)

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