iPhoneへの採用にらみ、有機ELをSamsungが増産
6月18日(土)の日本経済新聞は、Samsungが約7200億円を投じて有機ELパネルの生産工場を拡充すると報じた。スマートフォンパネルに換算して2億数千万枚の規模になる見込みで、現状の5割増しになるという。
Appleが有機ELを用いるのは2018年と伝えられていたため、使われるのはiPhone 8だと見ていたが、日経は有機ELスマホがどうやら17年に前倒しになりそうだと伝えている。2016年にはiPhone 7が発表されるはずなので、17年だとiPhone 7Sから有機ELが入る可能性がある。ただし、Appleはこれまで、iPhoneなどの製品に使われる部品メーカーの公表を避けてきたため、Samsungの口からは決してApple向けとは言えないが(言えば契約違反になり違約金が発生する)、Samsungの大規模な増産計画はiPhone向けと捉えることは自然の成り行きである。ただし、6月13日(米国時間)から始まったAppleの開発者会議WWDCでは、一般受けするような発表がなく、新聞報道は少なかった。
有機ELはその言葉通り、プラスチック材料を利用するディスプレイであるため、液晶のようなリジッドな固いスクリーンにする必要がない。曲げられる(フレキシブル)という要素が入り込んでくる。Samsungが自社のGalaxy製品に有機ELパネルを搭載してから1~2年経つが、ディスプレイの周囲に丸みを付ける程度、曲げている。ただ、液晶と同様にガラスを基板にしているため、少し折り曲げる程度しか曲げられない。プラスチックフィルムを基板とするフレキシブルエレクトロニクスを使えばディスプレイを折りたためるようになる。
フレキシブルエレクトロニクスは今や、必要な所にCMOS ICを使い、無理して全ての素子をプラスチックで作ろうとは思わない考えに変わってきた。フレキシブルハイブリッドエレクトロニクスという言葉でその技術を表現し、実用化を早めようとしている。有機ELディスプレイは、フレキシブルハイブリッドエレクトロニクスの実用化を早める応用となりうるだろう。産業技術総合研究所と東京大学、山形大学、田中貴金属工業は共同で、配線幅最小0.8µmと微細な配線をプリント技術で形成する技術を開発したと4月に発表しているが、この配線は有機ELの画素の配線を描けるほど微細なため、有機ELのフレキシブル基板利用を早める可能性がある。田中貴金属が実用化を推進する。
日経では、SamsungがAppleに供給するとあるが、今のところ有機ELパネルを安定的に供給できるメーカーはSamsungが最有力で、続いてLGになるが、LGも9000億円の投資による増産計画を発表している。ただ、Appleへ供給するという報道はないため、ジャパンディスプレイや鴻海精密工業(旧シャープ)にもチャンスはある。ジャパンディスプレイは500億円を投じ17年春に有機ELラインを新設するという。ここは18年に稼働するという計画だが、タイミングは遅いかもしれない。
2016年5月の台湾のIT産業は、鴻海精密などのEMSをはじめApple関連企業の前年同月比売り上げは4.7%減とマイナスだったが、半導体関連5社は7%増と2カ月ぶりにプラスに転じた。スマホ応用は少しずつ回復しつつあるようだ。6月、7月は回復してくるはずだ。
Appleが開催したWWDCは音声認識機能SiriをiPhone以外に、パソコンや他社の配車アプリなどへも拡大していくという。 加えて人工知能(AI)を利用して写真の認識による自動整理などへも応用すると16日の日経は報道している。
中国の投資活動で先週は一つ動きがあった。NXP Semiconductorは、同社の標準品部門を北京のJACキャピタルに売却すると発表した。売却額は27億5000万ドル。NXPの標準品にはディスクリートやロジック、パワーMOSFETを含む。これらの製品を自動車、産業用、コンピューティング、民生、ウェアラブルの市場に販売してきた。2015年におけるNXPの標準品売り上げは12億ドル。売却により、高性能ミクストシグナルやセキュアなコネクションなどにフォーカスする方針だ。