Google、I/O会議でディープラーニング専用半導体を発表
先週は、米国のシリコンバレーでGoogleの開発者会議「Google I/O 2016」が開催され、Googleのマシンラーニング用の専用プロセッサチップや、VR(仮想現実)など先進技術が紹介されている。同時にIoTの事例集も新聞などで発表されている。ルネサスの医療・ヘルスケア事業への提案ビジネスも注目される。
5月18日、米国カリフォルニア州マウンテンビューで「Google I/O 2016」が開催された。Googleはこれまでもスマートフォンを双眼鏡タイプのデバイスに差し込んでVRを楽しむハードウエア「Google Cardboard」を2年前に発表して以来、VRのプラットフォームソフトウエア「Expeditions」、「Jump」などを発表してきたが、今回は「Daydream」を発表した。このプラットフォームは、今秋発表されるスマートフォンで高精細のVRを楽しむことができる。Daydream対応のスマホは、Android Nを搭載したスマートフォン上のVRモードを利用する。20日の日経産業新聞によると、SamsungやLG、HTC、ASUS、華為、小米、ZTEなど各社が今秋以降に発売する。
図1 TPUボード 出典:Google
もう一つの話題は、Googleがディープラーニング専用のプロセッサTPU(Tensor Processing Unit)(図1)の発表である。これは数年前からGoogleが開発してきたディープラーニング専用のアクセラレータチップであり、すでに1年前に同社のデータセンターで稼働させてきたという。その結果、マシンラーニングを実行するのに、消費電力当たりの性能は1桁向上したとしている。
同社はマシンラーニング専用に設計するため、演算精度を削減してもチップの能力が十分確保できるようにした、と同社のブログ(参考資料1)で述べている。この「演算精度を削減(reduced computational precision)」という表現を巡って、本流の64ビットではなく、16ビットあるいは8ビット演算ではないかという憶測が米国内のメディアで飛び交っている。演算当たりのトランジスタ数を削減することにつながるため、消費電力の削減に結びついたことになる。このため、1秒当たりの演算数 (operations per second)を減らすことができた、という。さらに、これまでよりもっと賢く強力なマシンラーニングの複数のモデルを使い、これらのモデルを素早く計算できたとしている。
このTPUチップは、最初のテストチップ完成からデータセンターでの実行レベルまで、わずか22日以内で稼働できたという。このチップは、検索結果の妥当性を改善するRankBrainや、地図のStreet Viewなどに加え、プロの囲碁棋士チャンピオンに勝ったAlphaGoなどにも使われているという。このチップ向けにSDKツールTensorFlowを使ってソフトウエア開発ができる。
マシンラーニングやAI(人工知能)などの有力な応用分野としてIoTのデータ解析がある。今のところまだ高度なデータ解析の実例は明らかにされていないが、簡単な実例は出てきている。コマツは建機の稼働状態を見るシステムKOMTRAXを導入している実例は有名だが、建機の製品工場と部品工場の稼働状態を現場で見ることのできる仕組みKOM-MICSも導入していると23日の日経産業が伝えた。また、消費者の購買行動をチェックするシステムをコンタクトレンズのメニコンが導入、生産計画に利用しているという。ソニーは米国のベンチャー、Cogitaiに出資した。18日の日経によると、3年後をめどに新型AI製品を搭載する。
IoTビジネスを医療・ヘルスケアに応用するのがルネサスエレクトロニクス。ヘルスケアソリューション部を設立、例えば薬の飲み忘れに対処するため、錠剤を包装シートから取り出す時の力を電力に変えるエネルギーハーベスティングを利用して飲んだ時刻を記録する。また皮下の血管を観察して心拍数を測定するウエアラブル機器なども想定している。ハードウエアチップだけではなく、チップに焼き付けるソフトウエア開発ツールや、アプリケーションソフトなども外部パートナーを使って開発していく。医師のグループもエコシステムに取り入れることは医療機器分野ではマストである。
参考資料
1. Google supercharges machine learning task with TPU custom chip, Google Cloud Platform Blog (2016/05/18)