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東芝、社長・会長の人事案を発表

ゴールデンウィークの谷間にあたる5月6日、東芝が社長・会長の人事案を発表した。代表執行役社長候補には現副社長の綱川智氏、代表執行役会長には現副社長の志賀重範氏を選定した。正式には6月下旬開催予定の株主総会終了後の取締役会で決定する。元社長の室町正志氏は特別顧問に就任する予定である。

東芝は昨年4月に発覚した会計不祥事を受け、企業の立て直しをこの1年で図ってきた。医療機器子会社の売却や人員削減などを通じて、経営の混乱に一定のメドが付いたと判断、体制を刷新する。

社長となる綱川氏は、東京大学教養学部を卒業後に東芝に入社し、以来ずっとメディカルシステム関係の事業に携わってきた。そのメディカル事業を東芝がキヤノンに売却することに決めたため、綱川氏はしがらみのない自由な立場になった。このため、同氏は東芝を公正中立的な立場で見ることができる数少ない役員になった。5月7日の日本経済新聞は同氏とのインタビュー記事を掲載、「社長として私に求められているのはしがらみのない、合理的な経営判断だと思う。自由闊達な雰囲気を作り出すといった全社的な改革を期待されている」と綱川氏は述べている。

会長候補の志賀氏は、原子力と電力一筋でやってきた元エンジニア。東北大学原子核工学科の修士課程を卒業、以来原子力システム設計を担当した後、マネージャーの道を歩んできた。最近はエネルギーと電力・社会インフラの事業を担当してきた。

社長・会長候補の人事を決めたのは、東芝の社外取締役5名からなる指名委員会。5月7日の日経によると、委員長の三菱ケミカルHD会長でもある小林喜光氏であり、小林氏は「東芝の事業は領域が非常に広くて深いため、東芝を最もよく知っている人から選ぶ方が新生東芝を成長させられる」、としてトップを内部登用することを決めたとしている。小林氏以外の指名委員会メンバーには、アサヒビールHD相談役の池田弘一氏、一橋大学名誉教授で東京理科大学教授の伊丹敬之氏、公認会計士の佐藤良二氏、資生堂相談役の前田新造氏が加わっている。

次のリストラ上の課題は、赤字のパソコン事業と家電事業である。少なくとも白物家電は中国の美的集団に売却したが、テレビやAV機器やパソコンなどの民生用家電事業をどうするのか、まだ結論は出ていない。パソコン事業は、富士通、ソニー小会社のVAIOと3社での合弁を検討していたが、白紙に戻った。東芝は独自にこれらの赤字事業のメドを立てなくてはならない。EMSをはじめとする他社への売却、事業の撤退、事業立て直し、さまざまな選択肢に結論を出さなければならない。

これまで東芝は、メディアや業界にさんざんたたかれてきたが、この1年での改革スピードは速い。また、メディカル部門の売却により自己資本比率を債務超過寸前の2.6%を回避し、10%程度まで回復させる見込みになってきた。これによって、3月18日に開催された2016年度事業計画説明会では、倒産を回避できた気持ちが出て、ほっとしている様子がうかがえた。このことは、リストラの手を緩める危険があったため、懸念されていた。

しかし、わずか1カ月半で2016年度人事を決め、これからの改革に向けたスピードは評価できる。このままのスピード感を持って更なる再構築と、今後10年に向けた成長戦略とロードマップを描き、実行する計画を期待する。

(2016/05/09)
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