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Appleが日本に研究開発拠点を作る

先週、Apple社が日本に研究開発拠点を作るというニュースを12月10日の日本経済新聞や日刊工業新聞が報じた。これは安倍晋三首相が衆議院選挙の遊説中に「アジアで最大級の研究開発拠点を作る」、と述べたもの。Apple社の製品には日本製の部品が多数使われており、部品調達拠点が最大の狙いとみられる。

Apple社はそのニュースリリースではいまだに、このことを発表していないが、日本の政府関係者が発表したことは、さすがのAppleも否定できまい。Appleは事前にニュースが漏れることをひどく嫌う会社である。使っている部品でさえ、そのメーカーの製品なのか、部品メーカーがもし採用されていることを述べると巨額のペナルティを支払わなければならない。今回のニュースは、日本政府が公にしたことで、Appleはニュースリリースを発表していなくても、事実となりうる。

一部のインターネットや新聞紙上で述べられているようなヘルスケア端末の開発を目指したものではなく、部品調達が主目的であろう。日本の最先端部品技術情報は、部品分野に集中しているからだ。かつてノキアが世界一の携帯電話機メーカーであった頃、ノキアは日本現地法人を設立した。当初はNTTドコモなどの通信オペレータに携帯電話を納め、消費者に使ってもらうことが狙いだったが、2G時代のNTTファミリ包囲網を崩すことはできなかった。しかし、国内法人をなかなか撤退させなかった。狙いは、部品調達にあるからだ。Appleの拠点の役割も日本の最先端部品情報をいち早く取り込むことであろう。ヘルスケアビジネスは残念ながら、日本では参入バリアが高すぎて、日本よりも米国の方が参入しやすい。

研究開発拠点の役割が部品調達といえ、これは研究開発に直結している。半導体や受動部品などの日本製部品の技術レベルがやはり高い。村田製作所をはじめとする部品メーカーが開発している「0201」部品は、長さ0.2mm台、幅0.1mm台と極めて小さい。ここまで小さな部品を製造できる外国企業はまだいない。部品が小さくなれば、スマートフォンの基板面積を小さくしてバッテリの設置面積を大きくできる。すなわち電池容量が増加でき、電池は長持ちする。しかも、研究開発で使った部品と生産立ち上げで使う部品・部材が日本のモノづくりでは違うことが多かった。このため、Time to marketの時間がかかっていた。最近ではCMS(Content Management Software)と同じようなPLM(Product Life cycle Management)が入手できるようになり、研究開発で使った部品をそのまま量産にも使えるようになった。最先端の部品情報を取り込むことも開発拠点の大きな役割である。

スマホ用半導体は何もQualcommやMediaTekのアプリケーションプロセッサ(APU)だけでない。スマホにはセンサが大量に使われるようになったため、加速度計、ジャイロスコープ、マイクロフォンなどのMEMSデバイスは標準装備され、これからはMEMS圧力センサの出番が来る。圧力センサで微妙な気圧変化を測り、3次元の高さ情報を得れば、GPSと組み合わせて、居場所がビルの2階か3階なのかを区別できる。

例えば先週、ロームはMEMS気圧センサを開発、アンプやA-Dコンバータなどの信号処理や温度センサなどのIC回路とMEMSチップを1パッケージに搭載した。気圧データを温度変化によって補正するアルゴリズムを独自に開発し、高度±20cmの誤差で高さを検出できるとしている。

APUに関して、AppleのiPhoneやiPadとは直接関係ないが、QualcommとMediaTekに全く対照的なニュースが先週流れた。日本ではほとんど報道されていないが、Qualcommが約600名のレイオフに踏み切る、とインターネットメディアのRCR Wireless Newsが報じた(参考資料1)。米国内300名弱、国外300名程度になるようだ。一方、MediaTekは、LTE(4G)用スマホ用の半導体の出荷量は2015年に1億個を超える水準に引き上げる方針だと9日の日経は伝えた。この量は14年実績見通しの3倍強にあたるという。中国の小米科技などはQualcommのチップを使っていながら、低価格・高品質のスマホを出荷してきた。LTE時代のAPUに向け、MediaTekがQualcommに宣戦布告した形になる。


参考資料
1. Qualcomm layoff reports highlight pressure on chip prices (RCR Mobile Minute)

(2014/12/15)
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