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IBMの半導体部門売却の裏を読む

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IBMがGlobalFoundriesに半導体製造部門を譲渡するというニュースが先週流れた。半導体の製造部門はIBMにとってもはや不採算部門となったため、譲渡することになった。ただし、今回の譲渡契約に関しては、譲渡額は示されなかった。それどころが、製造技術やIPなどを、売却する側のIBMが相手先にお金を支払うという「あべこべ」の条件が付いた。

先週のこのビッグニュースは、半導体産業の大きな構造変化と極めて密接に関係する。わかる範囲でひも解いてみよう。まず、今回の状況は、ニュースリリースによると、IBMの半導体量産工場として、ニューヨーク州イーストフィッシュキルとバーモント州エセックスジャンクションの古い工場をGlobalFoundriesが取得し運営する。GFにとっては顧客と数千人の従業員を得られる。ただし、サーバー向け半導体のチームはIBMに残す。さらに、GFはIBMのファウンドリ部門であるマイクロエレクトロニクス事業も得る。ここにはGFは今後も投資し続ける。

IBMは今回の半導体製造の譲渡について、2014年の第3四半期決算に税引き前経費として47億ドルを計上する。この経費には、資産価値の減損分、IBMマイクロエレクトロニクス事業売却に見込まれるコスト、そしてGFへの現金対価(cash consideration;辞書では報酬の意味も)を含む。この現金対価は15億ドルで、今後3年間に渡りGFに支払われる。この現金対価は、2億ドルと見込まれる運転資金の金額によって調整される、とする。

IBMの半導体事業は元々、IBMのコンピュータに必要な半導体を製造するために行われてきた。コンピュータやプリンタ、ハードディスク装置などに向けた内製市場であった。ところが、コンピュータ(IT)産業の価値がハードウエアからサービスへ移っていくことにより、IBM社内でのコンピュータ市場は小さくなってきた。パソコン事業は2000年半ばに中国のレノボに売却した。

コンピュータのハードウエア内製市場が小さくなってきたため、半導体IDM(設計から製造まで垂直統合型の企業)として設計から製造、実装まで一気通貫で持っていても、大量生産工場のキャパシティが余るという事態になった。これは1990年代から2000年代にかけて世界の半導体産業全体に通じる大きな変化であった。ファブレス企業が大量に増え、半導体製品の種類が増えてきたものの、製造ラインはそれほど増やす必要がないのである。DRAMやフラッシュメモリのように量産が必要な製品に限りIDM方式でも成り立つが、それ以外の品種をIDMが扱うには生産能力が余ってしまった。IBMもこの産業構造の変化に遭遇した。

そこで、IBMは2000年代中ごろに、半導体事業の価値を製造技術やシステム設計、製造ノウハウの販売サービスなどへ移すことを決めた。歩留まり向上ソフトウエアを販売し、メンテナンスするサービスや、Common Platformという方式の先端プロセス技術開発サービスビジネスをはじめるとともに、ファウンドリサービスも開始した。

しかし、これまでの知的な資産のサービス売りは製造価値を持続することが難しく、製造装置のノウハウや装置間のネットワークのセキュリティなどを扱っていたソフトウエアとその運用サービス部門を、M2M(machine to machine)で有名な欧州のTelit社に売却した。Common Platformコンソーシアムも参加各社の実力が上がっていくにつれ、尻すぼみになってきた。加えて、ファウンドリサービスも大手ユーザー指向であり、その大手もモバイルメーカーではなかったために時代に遅れ、ファウンドリビジネスも下降してきた。

そこで今回の量産工場の売却になったと推察する。だからと言って、半導体事業を捨てるわけではない。IBMは次世代のコンピューティング技術の開発のために次世代半導体開発に30億ドルを投資することに変わりはない。IBMの半導体開発は、従来のようなノイマン型アーキテクチャを支える技術ではない。次世代クラウドとモバイル、ビッグデータ解析、セキュアなトランザクション処理で最適化されたシステムを行うために必要な半導体を開発するのである。だからこそIBMは今後も、専用のサーバー向けプロセッサを開発し、GFは22nm、14nm、10nmの半導体プロセスを開発し10年間IBMに提供する。サーバー向け半導体を作るだけなら、量産製造工場はもはや要らない。

ビッグデータ解析や、次世代クラウドなど大量のデータを扱い、自動的に解析結果を瞬時に送り出すような半導体チップこそ、IBMが望む半導体ではないだろうか。だからこそ、アーキテクチャとして、ニューラルネットワークを利用するというアイデアが出てきた。消費電力の点でCMOS技術が行き詰りで見せているが、これに代わる半導体デバイスが求められている。それは基本素子がトランジスタではなく、ゲート回路やフリップフロップかもしれない。

(2014/10/27)

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