SiCパワー半導体、まずショットキを電車に搭載
7月23日から25日にかけて、電源やバッテリ、モータ、熱設計など、パワー半導体を中心とするTechno-Frontier 2014が東京ビッグサイトで開催され、新聞紙上ではパワー半導体関係の発表が多かった。SiCは課題だったコストが議論されるようになってきた。
7月22日の日本経済新聞は、京都経済特集の中で、京都の企業を中心にSiCパワー半導体に関する共同開発プログラム「京都地域スーパークラスタ-プログラム」を、JST(科学技術振興機構)から2017年度まで4億円の補助を得て推進している、と述べている。オムロンや京セラ、サムコ、島津製作所、住友電気工業、ニチコン、日本電産、堀場製作所、村田製作所、ロームなどの企業に加え、京都大学や京都工繊大学、同志社大学、立命館大学などが参加する。
ロームは国内企業では早い段階からSiC半導体を開発してきたが、その研究を先導してきたのが京都大学名誉教授の松波弘之氏。同氏は、Si半導体が確立し始めた1960年代終わりころからSiCを手掛けてきた。1987年にステップ制御エピタキシー法と呼ぶ技術を開発し、転位をはじめとする結晶欠陥を減らしたことで、実用化が見えてきた。95年にはショットキバリアダイオード(SBD)、99年にFETを開発したが、日本の半導体大手は見向きもしなかったと松波氏は筆者に語っている。
ちょうどその頃、米国のCree社がSiC基板の販売を始め、ドイツのInfineon Technologiesが2001年にSBDを発売した。ロームは、京都大学の松波研究室に研究員を派遣、SiC半導体の研究を国内で最初に始めた。これによってロームは2010年に国内では初めてSBDの量産に踏み切れるようになった。今では、ロームに加え、三菱電機、富士電機、デンソーなどがSiCパワー半導体の開発している。デンソー以外は販売も始めている。
SiCパワー半導体は、SBDとパワーFETの内、コストが1桁高いパワーFETはまださほど普及していない。しかし、SiのFRD(高速リカバリダイオード)をSiCのSBDに変えるだけでも損失が20%程度下がるといわれ、SBDから電車への採用が始まった。SiCのSBDが営団地下鉄銀座線の新型車両や、阪急電鉄の8000系車両に使われ始め、2015年秋にはJR山手線のE235系車両に搭載される見込みになっている。さらに、小田急電鉄ではSiC MOSFETも搭載したフルSiCのVVVF(variable voltage variable frequency)インバータを採用した1000系車両をこの12月から運行させる予定である。
SiCの強みは、Siよりも絶縁破壊耐圧が1桁高いこと。このため、不純物濃度が高くても(比抵抗が低くても)耐圧を上げることができる。その結果、オン抵抗を下げながら高い耐圧を得ることができる。電流を増やすためにIGBTなどのバイポーラ構造を採る必要がなく、多数キャリアデバイスですむ。SBDや、MOSFET/JFETなどの多数キャリア型トランジスタで高速動作が可能になる。
高速スイッチングが可能になると、外付けのコイルやキャパシタが小さくてすむため、それら受動素子のコストを下げることができる。SiC半導体自体のコストは1桁高いが、インバータシステムの小型化が図れるため、システム全体のコストは1桁アップする訳ではない。数倍ないし数十%のコストアップを許容できるシステムかどうかでSiCパワートランジスタ導入時期の違いが出てくるだろう。InfineonがCCM(連続導通モード)制御の400WのPFC(力率改善)モジュールで比較・計算した結果、バイポーラデバイスを使った140kHz動作と比べ、SiCのSBDとSiのMOSFETを使った500kHz動作の方がむしろ8%コストダウンになるという(参考資料1)。
デバイスでは、SiCのSBDとMOSFETを一つのモジュールに組み込んだフルSiCモジュールの発表が相次いでいる。三菱電機が600V、20Aの家電製品用の小型モジュールを発表し、この5月には1200Vで100A〜600Aのパワーモジュール(2対のMOSFETとSBD)を製品化した。ロームも1200V・300Aのパワーモジュール(同)のサンプル出荷を始めた。
研究フェーズでは、MOSFETよりもさらに大電流を可能にするバイポーラトランジスタの研究も始まっており、松波氏の後を継いだ木本恒暢教授が将来の送電網や超高耐圧・大電流用途の半導体を目指している。
参考資料
1. コスト・パフォーマンスで考えるSiCデバイス〜Infineonの取り組み (2014/07/10)