AppleとIBMの提携、互いにいいとこ取りの補完関係
夏休み前のビッグニュースは、AppleとIBMの提携であろう。17日の日本経済新聞がその話を掲載した。モバイル端末と消費者向けサービスに強いAppleと、クラウドや企業向けのサービスに強いIBMとがお互いに補完し合う関係を築き、両社の強みに磨きをかけるだろう。富士通の工場売却の話はまたか、という感じが強く、正式に決まるまでコメントを避けよう。
今、ITの4大トレンドは、モバイルとクラウド、ソーシャル、ビッグデータだと言われている。このうち、モバイルとクラウドとはとても相性が良い。クラウドはビッグデータとも係わり、モバイルはソーシャルとも関係する。4大トレンドが関係しあいながら大きく発展するだろう。これまでのパソコン時代では、パソコンとASP(アプリケーションサービスプロバイダー)という関係が一時あった。パソコン側負担を減らしアプリケーションソフトを貸し出すサービスで業務改善を図ろうとする動きであった。新しいクラウドは、ASPとは違い、人の手を介さず、全て自動的にアプリケーションソフトやサービスを提供しようという概念である。
モバイルで身近に使われているクラウドサービスの一つが音声入力のSiriであろう。「近くのレストラン」と声を発すると、その答えを探して提供してくれる。スマートフォンのような端末側では音声認識処理はしない。こちらから音声データのみをクラウドに飛ばし、クラウドのサーバーが音声認識処理演算を行い、その音声の意味に合ったサービス(レストラン情報)を探し、答えだけをスマホに送ってくれる。送り、受け取るデータは非常に軽いため、スマホの演算能力はさほど使わなくてすむ。利用者にはまるでスマホが答えているように見える。
Appleは、スマホやタブレットのような端末設計と、App StoreやiTunesのような消費者向け流通サービスが得意だ。これに対してIBMは企業向けのクラウドサービスをはじめとして、企業のコンピュータシステムの効率を上げる方法やセキュリティ管理を熟知しており、そのサービスを提供することが得意だ。両社が手を組むことで、企業向けのサービスにiPadやiPhoneを利用するようなビジネス形態が両社ともありうる。Appleにとっては、iPadの行き詰まりを打開し、民生からビジネス用途への拡大が見込める。IBMにとってはスマホやタブレットを利用した『いつでもどこでも』サービスを企業向けビジネスに展開できる。またモバイル端末のセキュリティやクラウドでの管理などもIBMの得意とするところ。IBMのビジネスはますます広がる。
モバイル時代は半導体の微細化技術を牽引するデバイスはアプリケーションプロセッサ(APU)である。QualcommやMediaTekが得意な携帯電話やスマホ向けのプロセッサを製造するのはTSMCだ。モバイルが好調ならばTSMCも好調になる。16日にTSMCが発表した4~6月期の決算では、売り上げと利益が過去最高を記録したと17日の日経が報じた。TSMCは下期も受注が満杯だという。Qualcommは20nmプロセスのチップを注文しているが、他社は28nmが多い。一般には28nmの時代は長く続き、20nmをスキップして14/16nm時代へつながると見られている。TSMCは、AppleのAPUも受注したと言われており、これまでAppleのAPUを物理設計+製造してきたSamsungから注文を奪い取ったことになる。ところが、18日の日経は、逆の見方の記事を流した。QualcommがAPUの生産をTSMCからSamsungへ委託先を変更するという観測が流れ、TSMCの株価が下がった、と報道した。ただし、その真相はまだはっきりしない。
モバイルの好調さに引きずられ、パソコン市況は底を脱したようだ。Intelの発表した4〜6月期は売り上げが前年同期比8%増の138億3100万ドルになり、利益も同40%増の27億9600万ドルの増収増益だった。パソコンの回復と共にモバイル用に振り向けられてきたDRAMは、パソコン用が品薄感で高値が続いていると、16日の日経は報じている。
日本では相変わらず消極的な工場売却の話が富士通から出た。先端の三重工場を台湾のUMCに、会津若松工場をON Semiconductorに売却すると18日に日経が報じたもの。この話が事実なら、富士通は設計、製造ともに半導体事業を手放すことになる。
(2014/07/22)