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アップルのルネサス子会社買収話の読み方

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4月2日、日本経済新聞は1面トップで、「米アップルは半導体大手のルネサスエレクトロニクスと、ルネサスの液晶用半導体子会社の買収交渉に入った」から始まる記事を掲載した。タイトルは「アップルが買収交渉、ルネサス半導体子会社、スマホ中核技術囲い込み」とある。

半導体子会社とは、ルネサスが55%、シャープ25%、台湾Powerchip Groupが20%を出資して設立された液晶ディスプレイ用のドライバICを設計・製造しているルネサスエスピードライバ社のことだ。半導体業界のエンジニアなら液晶ドライバがスマートフォンの中核技術ではないことくらいご存知であろう。いわばコモディティ製品だ。

液晶の画素数が違えば、画素を点滅させるための駆動回路(ドライバ)の種類も違う。だからといって、製品の種類ごとにドライバを作り分けるようなコストのかかることはしない。基本的な回路に行と列の画素ごとにドライバ回路を追加するだけのこと。設計に知恵を作りこむSoC(システムLSI)とは違い、極めて単純なICだ。メモリコンパイラと同様に、画素数と液晶のサイズを入力すれば、自動的に回路が設計されてくる。ドライバ用のシリコンコンパイラで十分設計できる製品だ。

ルネサスは2日、「当社およびルネサスエスピードライバは更なる成長のため、譲渡を含む様々な検討を行っていますが、現時点で決定した事実はありません」というニュースリリースを出している。つまり譲渡は選択肢の一つだ。ただし、こういったコモディティ製品は買い手が付きにくい。他の半導体メーカーやファウンドリでも作れるからだ。これでアップルは買うだろうか。唯一、アップルとしてはルネサスからの安定供給に期待するという考えはある。

ただし、もしこの買収交渉が事実であれば、交渉の途中に話が外へ漏れたことになる。常識的に考えれば、その瞬間、相手は交渉を打ち切るだろう。会社の秘密漏れに非常に神経を研ぎ澄ますアップル社はこの話が漏れたと知ったら神経を逆なでされたことになる。訴えるかもしれない。あるいは賠償金を要求するかもしれない。

アップル側から漏らすということはありうるか。常識的には、米国企業では絶対にありえない。交渉が決まるまでは、インサイダートレーダーが必ず動き、不正な株価操作もしくは取引につながる可能性があるからだ。このことを防ぐ意味でも事前に売買交渉事を外部に漏らすことは犯罪につながる恐れがあるため、ありえない。これまでも半導体業界では、外国企業との買収を含む企業間交渉で事前リークによって成立した試しがない。

国内株式市場では、このニュースにすぐさま反応した。ルネサスの株が一時ストップ高になり、前日比150円高となる934円の年初最高値を付けた。もっともルネサスの株主構成は一般市場が10%にも満たないから、市場で大きな影響を及ぼすものでもない。

先週は、東芝の産業スパイに関する続編が明らかになった。逮捕された杉田吉隆容疑者を不正競争防止法違反の罪で起訴する見通しだ、と3日の日経が伝えた。容疑者は、盗んだ技術情報をSK Hynixのサーバーにアップして、誰でも閲覧できるようにしたという。こんな手法では、正式ルートでHynixに入社した東芝やSan Diskからの転職者が見るとすぐにわかるだろう。やはり、日本のエンジニアが海外企業へ転職するという一般的な話と、今回の犯罪とは全く違うと捉える必要がある。こういった犯罪を防止するために、企業側は現在、厳しいセキュリティチェックで対応しているという。

(2014/04/07)

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