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三菱マテリアルの爆発事故、半導体産業への影響はどうか

年明け早々、半導体関係の工場で大きな爆発事故が起きた。現在までに伝えられている事実関係を整理したい。また、先週はInternational CESが米ネバダ州ラスベガスで開催され、未来を見据えた技術がいろいろ出てきた。

1月9日午後2時過ぎ、三重県四日市市にある三菱マテリアル四日市工場で、5人が死亡、12人が重軽傷を負うという爆発事故が起きた。同社は同日と翌日、続けてプレスリリース(参考資料12)を発表し、事故についてすぐさま対応した。それによると、「水素精製設備の熱交換器を定期洗浄するために取り外し、所定の酸洗場において前洗浄を実施の後、蓋を開けた際に爆発が発生」とある。周囲の設備に大きな被害はないと追加説明しているため、この熱交換器そのものが何らかの爆発を起こしたものといえる。

保守点検作業として、この熱交換器に付着したトリクロロシラン(SiHCl3)を水で洗い流す作業をしていたという。直径1m、重量200kgもある蓋が10mも吹き飛んだというから、爆発の威力は相当あったに違いない。事故の原因についてはまだ発表はない。

三菱マテリアルは、1月6日に、取締役社長の矢尾宏氏が年頭の挨拶(参考資料3)で、4大課題の一つとして、「安全衛生・CSRについて」を採り上げたばかりだった。「従業員の安全は、最優先に取り組むべき課題です。引き続き安全への意識を高め、基本的ルールの遵守を徹底することにより、『ゼロ災』を目指していきたいと思います」と述べている。今回の事故を受けて、同社は操業を一時停止すると発表した。再開時期は未定だという。

この事故による半導体産業への影響はどうか。三菱マテリアルで生産していたのは、半導体シリコンウェーハの原料となる多結晶シリコン。この多結晶シリコンを単結晶シリコンインゴットメーカーである、信越半導体やSUMCO(三菱マテリアルシリコンと住友金属工業との合弁)などへ納める。この日本の単結晶シリコン大手2社で世界市場の半分のシェアを持つという。三菱マテリアルはその歴史的な背景からSUMCOへ納入しているが、10日付の日経産業新聞によると、同社四日市工場の多結晶シリコンの生産能力は年間2800トン弱で、その約7割はSUMCO向けだとしている。ただし、稼働率は7割程度まで落ちていたと同紙は報じている。

多結晶シリコン市場では、米国のHemlockとドイツのWackerが過半数のシェアを占めていると言われ、その次が日本のトクヤマだとしている。トクヤマは市場シェア20%を持つと表明している。トクヤマの生産能力は年間9200トン、昨年稼働し始めたマレーシアの工場は太陽電池用だが同6200トンだという(参考資料4)。トクヤマの多結晶シリコン生産の内、何割が半導体用かわからないが、三菱マテリアルの2800トンは少ない数字のように見える。これらの数字を見る限り、半導体産業への影響は、三菱マテリアルが稼働休止している期間の長さにもよるが、生産回復が早ければそれほど大きくならないといえる。

一方、株式市場は敏感に反応した。9日に三菱マテリアルの株価は376円だったが、10日は370円に下がり、本日(14日)の11時現在では3.7%減の362円まで下がっている。納入先のSUMCOの株価は9日現在916円だったが、10日には894円に下がり、本日11時には5.7%減の864円になっている。

なお、一時期、多結晶シリコンの品不足が新聞紙上をにぎわしていたが、シリコンは酸素に次いで地球上で2番目に豊富な元素である。高校の化学の教科書でクラーク数として、「おっしゃられて、かそーかま(O、Si、Al、Fe、Ca、Na(ソーダ)、K、Mg)」と覚えたとおりだ。結晶シリコンの出発原料は、硅石(SiO2)。これを還元して低純度の金属シリコンを作る。それを精製するため、トリクロロシランに変換、蒸留して純度を上げる。さらに水素で還元して多結晶シリコンを作る。つまり、こういった工程を見る限り、今後もシリコンが不足するのではなく、生産する設備能力が不足しているだけの話であり、冷静な対応をすべきである。

最後に、International CESについて簡単に触れておく。日本の新聞やメディアは4Kテレビやウエアラブル端末に集中していた。しかし、同展示会を主催するCEAは、曲面利用のフレキシブル4Kテレビや次世代のスマートフォンから、ラジコン飛行機やロボット、センサ、IoT(Internet of Things)、高音質オーディオ、コネクテッドカー、3Dプリンタが未来のエクスペリエンスを提供すると発表している(参考資料5)。今年は出展社3200、総出展ブース200万平方フィート(東京ドーム4個分)、15万人来場、うち外国人3万5000人、だったとしている。

参考資料
1. 三菱マテリアル プレスリリース「四日市工場における爆発火災事故について」 (2014/01/09)
2. 同上「四日市工場の操業一時停止について」 (2014/01/10)
3. 同上「世界への飛躍を目指して、果敢に挑戦する年に」 (2014/01/06)
4. トクヤマのホームページ
5. Wow! CES! – The magic of global innovation comes to life at the 2014 International CES (2014/01/11)

(2014/01/14)
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