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ポストスマホの議論が始まり、グローバル情報の獲得は必須

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パソコンからタブレットへ、スマートフォンへという世界的な流れの次は何かという議論が始まった。日刊工業新聞は7月1日から「激動スマホ・次のセンターは誰だ」シリーズを始めた。同日の日経産業新聞はSEAJ(日本半導体製造装置協会)の丸山利雄新会長の「海外メーカーの動向を無視してビジネスは成り立たない」という談話を載せた。

パソコンの国内出荷台数が7カ月連続減少し71万台になり、タブレットが1〜3月に前年同期比187.2%増の201万台に達した、と6月25日の日本経済新聞が報じた。パソコンからタブレットへという流れは止まらないが、「アップルが電話を再発明した」(スティーブ・ジョブズ)ように、これからはポストスマホを模索していく時期に来た。このためには、丸山会長の言われるようにグローバル情報をしっかりとらえることが必須だ。同氏は海外情報を共有できる仕組みを作ろうと考えているとする。

海外の企業情報とグローバルなトレンドを常につかむことは企業が成長する上で欠かせない。28日の日経産業は、日本の半導体メーカーが製造工場と設計を切り離し始めたことに対して、設計・製造分業モデルの出遅れを指摘したアナリストのコメントを載せている。分業モデルの出遅れも実は、世界のトレンドを見てこなかった、あるいは無視してきた日本の半導体メーカーが不振を極めた要因の一つに間違いない。しかし、今から分業して間に合うのか、その議論がなされていない。

企業が大きくなりすぎ、意思決定が遅れるようになると事業を切り離して分社化することは世界では当たり前だが、その例が27日の日経に掲載された。EMSの鴻海精密工業がコネクタ事業を分社化すると発表した。実は、コネクタ事業こそ、鴻海の本業であった。今やEMSが本業に移ってきたが、1980年代〜90年代はコネクタやスイッチ、キーボードをIBM互換機やアップルのMacintoshパソコンに納入してきた。このことを筆者は深せんにあった鴻海のコネクタ・ケーブル工場を取材した時に聞いた。コネクタ事業を切り離す狙いは、アップルに大きく依存するEMS事業が期待外れのiPhone 5によりコネクタ事業までその影響を受けてしまうことを嫌ったため。切り離すことで、株式上場による資金調達を見込める。現在、コネクタ事業は2590億円〜2910億円規模で世界3位だとしている。

かつて、エイサーの創始者で会長だったスタン・シー氏に、1万人を超す社員を抱えていた当時のエイサーでさえ意志決定がなぜ早いのか、インタビューしたことがある。答えは分社化だった。例えばASUSは元々エイサーから分社化した企業だ。最近ASUS社はパソコンからタブレットへと素早くビジネスを変身させたが、エイサー本体はタブレット事業に出遅れた(参考資料1)。シー氏はその当時「分社化した以上、自分は経営に一切、口を出さない。報告を聞くだけ」と言い、予算権限を含め事業そのものを完全に自分の役割から切り離したと述べた。

経営の意思決定が遅れると、企業の損失は大きく増大する。その例の一つが、先週、日経も日刊工業も報じた、ルネサスモバイルの解散だ。結局、どこにも売却できなかった。ルネサスモバイルのようなファブレス企業は、当初、開発投資が重くのしかかりチップを販売して代金を回収できるまでの数年は利益が出ない。このことはファブレス産業の常識だから、少なくとも2年間は利益が出ないことは最初からわかっていたはずだ。ルネサスモバイルはLTEのモデムチップ開発を業務としていたが、ルネサス本体は無線送信チップを村田製作所に売却したため、LTEソリューションとして売ることができなかった。LTE無線技術の全てをこのファブレスが担うなら成功の道はあったが、ルネサス本体の決定がちぐはぐだったため、結局頓挫した格好になった。というのは、LTEには各国で40程度の周波数や方式の違いがあり、無線回路もセットで、しかもプログラマブルな設計技術が利益を生むチップ開発に欠かせなかったからだ。

日経はクアルコムに勝てなかったというような報道をしているが、クアルコムが強いのはCDMAの基本特許を持っていたからである。3Gネットワークの基本モデム方式がW-CDMAとCDMA2000方式になったため、どちらもクアルコムにお金が落ちる。しかし、LTEは世界各社が同時に競争できる方式だった。もちろんクアルコムはいち早くLTE開発に着手してきたが、CDMA方式ほどの優位性は持っていなかった。LTE方式は、今後LTE-A、さらにLTE-B方式へとロードマップが定められており、今からでも勝てる技術は残されている。そのうち、LTEの将来技術でクアルコムを超えるところが出てくる可能性は十分ある。

同様に意思決定の遅い例として、シャープが中国で液晶の合弁工場を建設すると日経、日刊工業、日経産業が報じている。今さらながら中国に液晶工場を建設するのはサムスンと比べ、数年遅れている。建設費3000億円の大半を中国側が負担するが、低消費電力液晶パネル「IGZO技術」を供与する。日経は「虎の子」のIGZOと表現するが、もし虎の子ならポストIGZOの開発は必須だ。開発の余力はあるのだろうか。また、供与のビジネスモデルについてはどの新聞も触れていないが、ライセンスモデルだけではなく、ロイヤルティモデルも導入できていれば、ARMのように安定した収入を将来に渡っても築く機会が増える。ライセンスだけなら、キャッシュはもう入ってこない。

参考資料
1. Intel、Atomベースのプロセッサをサムスンに初納入、Galaxy Tab向け (2013/06/10)

(2013/07/01)

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